無料情報があふれても、若者は記事を買う! 
ジャーナリズムに足りない「ユーザー体験」の考慮

「Blendle」国際担当に聞く
佐藤 慶一 プロフィール
手前に立つ二人が共同創業者。(左)Alexander Klöppingと(右)Marten Blankesteijn(提供:ブレンドル)

ひとつは、創業者2人がジャーナリストとして自身の置かれた市場を見渡したとき、「流通に問題がある」と考えたことだ。端的にいえば、紙媒体は若い人に届いていない、との実感。だからオンラインで、若い人が利用するプラットフォームをつくろうと思い立った。

2つ目は新聞や雑誌のオンライン版が採用する有料制モデルについて。アメリカでは500以上の媒体がペイウォールと呼ばれる、メールアドレス(や住所や口座番号など)の登録が必要な課金モデルを採用。ペイウォールは2種類。課金したユーザーのみ閲覧できるモデルと、月に○○本は無料で閲覧できそれ以上読みたい場合に課金するメーター制がある。

日本ではメーター制のほうがなじみがあるかもしれない。たとえば日経電子版であれば有料会員限定記事を月10本まで閲覧でき、すべてのメニューを利用するには月額4,200円支払うモデルとなっている。多くの媒体を読みたい熱心な読者にとってみれば、それぞれにメールアドレスや口座番号などを登録しなければならない状況は煩雑だろう。

3つ目は、バナー広告。読者の体験を損なうとの認識が広がり、広告ブロックソフトの利用者が急増中だ。広告ブロックを調査するページフェアとアドビの調査によれば、世界で月間2億人近くが広告ブロックを利用しているという。オランダでは利用率が10%ほど。隣国ドイツ(人口約8000万人)では1800万人が利用するなどヨーロッパでも普及している。

The 2015 Ad Blocking Reportより。ヨーロッパにおける広告ブロックソフトの利用率は10~35%ほど

また、iPhoneの新OS「iOS 9」でも広告ブロック機能が搭載されるというのだから、今後ますますバナーやディスプレイ広告がブロックされる動きは盛んになるはず。そこで、定額課金でもなく広告でもないモデルを考える必然性があった。

「ジャーナリズムをアクセスしやすくすること」「ジャーナリズムに新しいビジネスモデルをもたらすこと」を考えた結果、ブレンドルはオンラインで1本ずつ記事を購買できるマイクロペイメントにたどり着いた。

良質なジャーナリズムに躊躇なくアクセスしてもらいたい

昨春のリリース時に15名ほどだったスタッフ数も、いまでは60名を超える。うち9割以上がサービス開発・設計にかかわる。共同創業者2名と国際担当2名、編集スタッフ(ドイツとオランダで一人ずつ)、CFO以外はエンジニアやデザイナー、Webディレクターなどが占める体制だ。そのため、スマートフォン(アプリもある)やタブレット、PCそれぞれに記事表示が最適化しており、各デバイスでの閲覧や購入がスムーズだ。

新規ユーザーには2.5ユーロがプレゼントされる仕組み。さらに利用したい場合は10~50ユーロを追加できる

トップページを見ると、異なる媒体の異なる記事が1本ずつ売られている。カード型で表示された記事には媒体名、価格、タイトル、冒頭の75ワードほどが掲載されている。

ブレンドルはスマホでは縦スクロール、タブレットやPCでは横スクロールで読むことができる。ソーシャルメディアでのシェアはもちろん、あとで読むサービス「Pocket」との連携もできる。読んだ後にいい記事だったら「いいね!」と評価でき、記事末尾にはフルパッケージの販売、人気記事や関連記事への動線もある。

また、各媒体を表紙から読むことも可能だ。記事の価格や公開するタイミングは入稿する媒体側が設定する。一部無料や10セント以下のものもあるが、平均は20~30セント。高いものでも1ユーロ以下だ。

記事が1本ずつ安く買えるとしても、若い世代は記事を買うことがない。現状の40万人の利用者のうち、半分以上が35歳以下だという(一時3分の2以上を占めていたこともある)。まず若いユーザーに「記事を買う」体験を普及させる必要がある。そのため新規登録者には2.5ユーロが与えられ、記事を買うことができる。

これに関連して、ブレンドルでは一度購入した記事を返品/返金(Refund)できる特徴的な機能がある。返品するには理由を書くだけ。返品される記事、されない記事ははっきりと分かれる。「人気のある記事はロングインタビューや調査報道です。これらは返品されることがめったにありません。一方、速報ニュースやゴシップ記事は一度購入されても、返品されることがあります」。実際、返品されるのは購入されたうちの5%以下だという。

返品機能に関して、媒体社はどんな反応を示すのだろうか。「返品ボタンがあることを興味深いと思ってもらうことが多いです。ブレンドルとしては、記事を買うプロセスに邪魔なものがあってはいけないと思っています。また、返品機能はユーザー体験として必要だと考えています。この機能があることで、躊躇せずワンクリックで記事を買うことができるのです」。

良質なジャーナリズムに躊躇なくアクセスしてもらう――。その結果、ある記事が返品されたとしても、媒体としては未来の記事づくりに反映できる部分があるだろう。ちゃんとお金を払ってもらえる、返品されない記事とはどういうものなのか。そのことを把握できるという意味で、返品機能はジャーナリズムに意外な貢献をするのかもしれない。

ところで、ブレンドルはどうやってユーザーを獲得していったのだろうか。