[スタジアム]
白戸太朗「誰のため、何のため? ~新国立競技場をめぐる問題に思う事~」

スポーツコミュニケーションズ

 何を優先すべきか考える機会

 オリンピック・パラリンピックにおいて一番大切なのは、素晴らしい競技が行われるような環境づくりだ。決して華美な建物ではない。観客も世界も建物を見ないというわけではないが、最も注目するのは選手たちのプレーである。お金をかけるべきなのは、その器も大事だが、その中身の料理であり、素材や調理法ではないだろうか。

 今回、最終的に試算された2520億円というメイン会場の建設費は、ロンドンの約840億円、来年開催されるリオデジャネイロの約580億円と比較してもあまりに高すぎないか。資金が余っているならともかく、限られた予算の中でそれだけのお金を投入すると、本来注力しなければならない、サービスやホスピタリティ、他施設の建設などにもしわ寄せが及ぶだろう。

 もちろん、最終的に国民にも負担を強いられることになるのだが……。少子化が叫ばれ、国の経済基盤が小さくなるタイミングで、その借金を背負うことになるのは無謀過ぎはしないか。

 大会後の施設利用に関してもかなりグレーだ。サブトラックがないという二流の陸上競技場、専用設計になっていない二流のサッカー競技場、コンサートホールとしても遮音性、残響処理の問題から二流以下。つまり何をするにも中途半端な施設がどこまで使えるのか。しかし維持費は35億円を超えてしまう。このままでは大きな“負の遺産”を残すことになるのは必至。国民の8割近くが当初の案に反対したのは当然だろう。

 ここで再度、スタートラインにたった競技場問題。もう一度、誰のために、何を優先するのか考えるべきである。そして「オリンピックがあったおかげで、あの建物があるんだよね」と、国民に親しまれ、使われる競技場にしなければならない。

 たとえ19年のラグビーW杯に間に合わずとも、代用できる施設は横浜国際総合競技場などないわけではない。丁寧に、議論を重ねて進めたい。そして大切なのはリーダーシップをとれる存在。今回の問題もその責任と自覚がある方がいたら変わっていたはずだ。

 と、この原稿を書き上げたところで「整備計画の基本方針」が発表された。「アスリートファースト」というのを掲げ、競技機能に限定。屋根も観客席の上にしかつけないらしい。予算を絞るには当然の流れだが、開催後の使用が限定され、採算は難しくなる……。またどの競技に合わせていくのかも重要で、今後は各競技団体間の駆け引きも熱を帯びそうだ。

 まだまだ結論まで時間のかかりそうなこの問題。ただ、自国開催のオリンピックなど生きているうちにそう味わえるものではない。僕たちも他人ごとではなく、大会を支える1人であるはず。国民の知恵と力を集約し、素晴らしいモノを作っていかなくてはならない。

 5年は長く短い……。

<白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール>
 スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス) へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展 させていくための新会社「株式会社アスロニア」の代表取締役に就任。13年1月に石田淳氏との共著で『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』 (清流出版)を出版。
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