不気味に壊れゆく日本。恋愛にも似た魅力を放つリーダーはどこに?

生島 淳 プロフィール
透明の棋士
北野新太著
ミシマ社 京都オフィス/1000円

京都の出版社から出た「コーヒーと一冊」というシリーズの2作目だが、装丁もキュート。

登場するのは森内俊之、渡辺明といった面々で、特に体調不良に苦しんでいた里見香奈女流名人の就位式に、多忙の羽生善治が顔を見せる「先駆者の訪問」は素晴らしい。

この作品には両棋士の人間性と、将棋界の「同朋意識」が端的に書かれている。

私はこの本を紹介するのに「人物ルポ」という言葉を使ったが、久しぶりに「ニュー・ジャーナリズム」に触れた気分で懐かしかった。

'70年代は沢木耕太郎を筆頭に、「私」がノンフィクションの主人公となって物語を紡ぐスタイルが流行したが、伝統的ジャーナリズムは「私」を出すことを不作法だと非難し、その結果、ノンフィクションは売れないコンテンツに成り下がった。

『透明の棋士』は作者本人が登場し、対局後に棋士たちと酒席を共にする姿も書かれている。そのスタイルが'80年代を思わせて、懐かしく、イイ雰囲気を醸し出している。

リーダーの仕事は魅了すること

最後は将棋同様に勝負の世界に生きる人間、バイエルン・ミュンヘンの監督、ペップ・グアルディオラに密着した『キミにすべてを語ろう』。

ペップ・グアルディオラ キミにすべてを語ろう
マルティ・パラルナウ著 羽中田昌+羽中田まゆみ訳 東邦出版/1500円

ペップはバルセロナで現代サッカーのひとつの完成型を示したが、2013年にバイエルンに移った。新しいチーム作りのプロセスを、スペイン人の記者がドイツに引っ越し、密着して書いたのがこの作品だ。作者のパラルナウは、スタッフと同様の扱いを受け、特別な位置から観察する。

サッカー・ファンにはたまらない内容であるのは間違いないが、これは組織のマネージメントに関する本でもある。選手のハートをつかむために、ペップはこんなことを考えている。「新しいコンセプトを理解して受け入れてもらうために、選手たちを夢中にさせて魅了する(中略)モチベートするのではなく、魅了して、夢中にさせる」。そして最初のシーズン、ペップは成功を収める。

モチベーションという言葉は日本にも定着したが、その程度では一流選手を動かすことはできない。魅了すること。これがリーダーの仕事なのだ。

しかし、バルサではそれが通じなくなる体験もした。「選手たちの瞳を見て、恋人同士のような輝きがあったら、そこにはパッションと魅惑が宿っている。しかし、だんだんと彼らの瞳からパッションの炎が消えていった。何年かして、バイエルンでも同じことが起こるだろう」

恋愛論とコーチング論は、とても似ている。

いくしま・じゅん/ノンフィクションライター。'67年、宮城県生まれ。早稲田大学卒業後、広告会社勤務を経て、'99年に独立。『スポーツを仕事にする!』『箱根駅伝 勝利の名言』など著書多数。黒田博樹の新刊『決めて断つ』(ワニ文庫)では構成を担当

※この欄は大林宣彦、堀川惠子、熊谷達也、生島淳の4氏によるリレー連載です

『週刊現代』2015年8月15・22日合併号より


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