綿密な計画も完成させる確信もなく、衝動に突かれて着手した私の丸太小屋づくりも、最終局面を迎えている。
豪快に立ち上がった丸太壁の上に、堂々たる大屋根を冠し、私の美意識と信念めいたものを讃え、完成目前の威容を見せておっ建っている。あとは、虚ろに口を開けている開口部に扉や窓を取り付ければ、めでたく完成といえる。
窓は家屋の目、扉は外界との結び目。開口部に建具を入れるのは、まさしく、画龍に目を入れる行為といっていい。私の丸太小屋は単なる材の構成物を脱し、輝き、命を吹き込まれる。
むはあっ、めでたすぎて興奮してきやがった。さあっ、開口部の始末をつけるぞ。
私は今チェーンソーを抱え持ち、丸太壁の開口部に建具を取り付けるための加工作業をしている。狭い開口部に窮屈な姿勢で身を置き、頭上にチェーンソーを持ち上げて駆使している。かあっ。これが、おびただしく危険な作業になる。
チェーンソーは刃の先端上部が何らかのモノに触れると、激しく手前に反射(キックバック)する特性がある。するてえと、頭上での作業でこのキックバックをくらうと、凶悪な鋸刃が頭部顔面を直撃する事態となりうるのだ。
ビビりつつ、細心の注意を払ってはいるのだが、何しろ経験不足、つか、初めての作業。くわあっ、ひょええ、おわあっ、幾度とキックバックがやってきて危ういことはなはだしい。
強烈なのが脳天を直撃して、万一のため被っているバイクのヘルメットをガリガリと掻きむしっている。あぶねえのなんの、しゃれなんねえス。マジ命懸けじゃ。
加工した開口部に建具枠をはめこみ、ついに、いまもって、とうとう扉と窓を取り付けた。イイカンジで収まっている。ううっ。出来た。出来やがった。しかも上出来じゃ。しびれる感動が、ビリビリと足元から脳天まで貫通する。ちきしょう、どんなもんだい、どうしよう。混乱し、惑乱し、錯乱にも似た思いに溢れ、ぷるぷるとふるえている。
もろもろの恥と失敗に打ちひしがれ、くたびれた五十男は、無キズの若者みたく興奮している。まだまだ出来るぜオレも。と。
(つづく)
守村大・著
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