本書でラス氏は目利きとしての才覚に加え、ライターとしての力量も存分に発揮しています。本書中でも時に難しい話題を扱いながらも、かみ砕いて分かりやすく解説しています。結果として本書はスピード感を持って読める仕上がりになっています。
ラス氏の著作は、本書の初版も加えると合計で600万部以上売れています。『ストレングスファインダー2.0』(日本では未訳)は米アマゾンの年間ベストセラー番付で2013、14年の2年連続で世界首位になりました。自分の強みを発見する「ストレングスファインダー」はギャラップ社が開発したコンサルティング手法であり、ラス氏も開発に加わっています。
「ストレングスファインダー」の生みの親は心理学者ドン・クリフトン氏。ギャラップ社の「中興の祖」であり、ラス氏の祖父でもあります。「著者あとがき」にも書いてあるように、同氏こそラス氏の文才を見いだし、2004年出版の処女作『心のなかの幸福のバケツ』(日本経済新聞社)の執筆を勧めた人物です。
ラス氏は並々ならぬ決意で本書執筆に取り掛かっています。全エネルギーを注ぐために、長年勤めたギャラップ社でのフルタイムの勤務を辞めたほどです。本書中でも触れているように、座る時間を減らすため、トレッドミル(室内ランニングマシン)上にパソコンを設置して歩きながら本書を書き上げています。
ラス氏の最新作は、アメリカで2015年5月に出版された『アー・ユー・フリー・チャージド?(フル充電されていますか?)』。テーマは再び健康とウェルビーイングです。
私事になって恐縮ですが、私はジャーナリストとしてもともと経済やメディアを専門にしてきました。にもかかわらず健康本である本書の初版を発売直後に購入し、さらには新潮社に出版を勧め、翻訳まで引き受けたのです。
直接のきっかけは、米クレアモント大学院大学(CGU)の博士課程に在籍し、ミハイ・チクセントミハイ教授の指導の下で論文を書き終えた妻の恵美の勧めです。「フロー理論」の提唱者である同教授は「ポジティブ心理学の父」の一人といわれています。
祖父クリフトン氏と同様に、ラス氏もポジティブ心理学の世界では著名人です。本書も発売直後からポジティブ心理学関係者の間で話題になり、妻にもCGU卒業生から「トム・ラスの新作が出たけれども、読んだ?」との連絡が入ったわけです。
加えて、私はかねてスポーツジムに通い、数年前からはジョウボーン社製「UP」を愛用しています(過去数ヵ月はフィットビット社製「チャージHR」)。ウェアラブル端末で一日の歩数や睡眠状態をチェックしているのです。「運動が仕事の生産性を左右する」とうすうす感じていただけに、本書を読み終えてすべてがふに落ちました。
そんな経緯もあり、本書の翻訳は楽しい作業でした。ただ、アメリカ人を念頭に書かれている本書には、日本食への言及がありません。アメリカでも日本食は健康食として人気なだけに、物足りなさも感じました。ラス氏に直接聞いてみたところ、すぐにコメントをもらえました。
「日本食は野菜が豊富。この面ではマイナス点はほとんどなく、素晴らしい。魚も日本食に欠かせません。水銀含有率が低い魚は非常に健康的です」
ラス氏自身も日本食ファン。同氏と親しい編集者ピオトル・ヤスキービッチ氏は「トムは特に寿司が好きですね。私と食事するときはよく日本食レストランに行きます。いつも寿司を注文していますよ」と教えてくれました。
『座らない! 成果を出し続ける人の健康習慣』より抜粋
つづきは書籍でお楽しみください!
著者:トム・ラス / 翻訳:牧野洋
『座らない! 成果を出し続ける人の健康習慣』
(新潮社、税込み1,404円)
座っていると、寿命が縮み、成果も出ない! 健康に働き、成果を出し続けるためには、何を食べ、どんな運動をして、何時間眠ればいいのか---著書累計600万部を超えるビジネスコンサルタントが提唱する「食事」「運動」「睡眠」のルール。