経営者は仕事中に運動せよ!
〜科学に裏付けられた究極の"ポジティブ心理学"

トム・ラス著『座らない! 成果を出し続ける人の健康習慣』より
牧野 洋 プロフィール

禁煙時代の健康セラピー

アメリカで本書の初版が出版されたのは2013年10月。私は電子書籍端末キンドルで直ちに購入し、魅せられました。

10年以上も昔の話になりますが、私は元会計士のアレン・カー氏が書いた『読むだけで絶対やめられる 禁煙セラピー』を読んで禁煙に成功しました。「禁煙=健康」だった当時と違い、現在は禁煙は当たり前です。本書を読み終えて「健康の次元が変わったんだな」と思いました。

事実、本書は健康をテーマにしているにもかかわらず、喫煙ばかりかアルコール依存にもほとんど触れていません。少なくともアメリカでは、健康を語るうえで禁煙を話題にする必要性は乏しくなったのでしょう。ちなみにラス氏は、適量の赤ワインは日常的に飲んでいます。

2015年は、1985年に『禁煙セラピー』が出版されてからちょうど30年目。禁煙は当たり前になりましたが、砂糖漬けの食生活や慢性的な運動不足など新たな問題が注目されています。本書は「禁煙時代の健康セラピー」なのかもしれません。

もちろん日本とアメリカでは事情が異なります。政府が日本たばこ産業(JT)株の3分の1を保有しているのが象徴しているように、日本は禁煙では周回遅れ。その意味で「禁煙時代の健康セラピー」は早過ぎます。一方で食生活の面では比較的健康であり、アメリカほど肥満症は問題になっていません。

ただし、食事はともかく運動と睡眠の面では日本は褒められたものではありません。特に日本人ビジネスマンの多くは、運動しないばかりか睡眠も削ってがむしゃらに働いているのではないでしょうか。

再びOECDの「幸福度」番付を見てみましょう。日本が2014年に36ヵ国中20位に甘んじたのは、長時間労働で国際的に突出しているため「ワークライフバランス(仕事と生活の調和)」の項目で31位に低迷したからです。家族を犠牲にして仕事漬けの生活を送り、ウェルビーイングを損ねている日本人ビジネスマンが多いのでしょう。同番付でアメリカは7位でした。

すべてのアドバイスが最新の研究で裏付け

本書に説得力があるのは、個々のアドバイスが漏れなく最新の研究で裏付けられているからです。もっぱら個人的な成功談を基にして書かれる啓発本とは一線を画しています。本書の土台になっている学術論文・記事は参考文献一覧とし巻末にまとめられ、ウェブサイト上で常時更新されています。

本書には興味深いアドバイスが詰まっています。「砂糖は毒物」「トマトで食事焼け」「座り病は世界的疫病」「ウオーキングデスクの活用」「最高のワクチンは睡眠」「睡眠薬よりも運動」---。すべて科学的データで裏付けされているとなると、重みが違ってきます。

個人的な体験を基にしてアドバイスするのは比較的容易です。一方で、膨大な科学的データを調べたうえでアドバイスするには目利きとしての才覚が欠かせません。米ギャラップ社で長年コンサルタントとして経験を積んだラス氏は、現代的表現を使えば「キュレーター」といえます(世論調査で有名なギャラップ社は、企業向けコンサルティングを広範に手掛けています)。

「はじめに」で本人も強調しているように、ラス氏は医者ではないし、栄養学や運動生理学、睡眠障害の専門家でもありません。ですが、心理学の学位を持ち、人間行動学を専門にする研究者です。16歳でがんを告知され、健康に人一倍の関心を寄せています。目利きとして学術論文など関連文献を大量に読み込み、役立つ情報を厳選してくれています。