経営者は仕事中に運動せよ!
〜科学に裏付けられた究極の"ポジティブ心理学"

トム・ラス著『座らない! 成果を出し続ける人の健康習慣』より
牧野 洋 プロフィール
アマゾンCEOのジェフ・ベゾス氏 〔PHOTO〕gettyimages

経営者は社員に模範を示しているのでしょうか。その点では米アマゾンの最高経営責任者(CEO)兼創業者のジェフ・ベゾス氏が先駆者です。どんなに忙しくても最低8時間の睡眠を自分に課していることで知られています。

ベゾス氏は1999年にウォールストリート・ジャーナル紙の取材に応え、「8時間眠ると、注意力や思考力の面で断然調子がいい。何よりも一日中気分がいい」と語っています。「眠る時間も惜しんでがむしゃらに働く」という労働観を否定して仕事の生産性を高め、IT業界の覇者になったわけです。

データの裏付けもあります。米調査会社フォレスターによると、自分の身体活動状態を測定するためのウェアラブル端末(身に着ける情報端末)の出荷台数の半分は法人需要です。社員の健康管理プログラムの一環として企業がウェアラブル端末を大量購入しています。「健康経営」が大きな流れになりつつあるのです。

健康に特化したウェアラブル端末「フィットネストラッカー」のトップメーカー、米フィットビットも法人需要をテコに急成長しています。2015年6月に新規株式公開(IPO)し、大幅な株高でデビュー。石油大手BPや保険大手ガイコなど大企業50社と提携し、顧客として取り込んでいます。

村上春樹も「食べる・動く・眠る」を実践

本書最大の特徴は、「食べる・動く・眠る」の3要素の統合です。ラス氏は「正しく食べるだけでは不十分、運動するだけでも不十分。よく眠るだけでも駄目です」と指摘しています。本書の原題が「イート・ムーブ・スリープ(食べる・動く・眠る)」となっているのもそのためです。

本書の翻訳作業で忙しかった2015年4月には、私は「村上春樹も無意識のうちに食べる・動く・眠るを実践しているんだ」と思わずにいられませんでした。同月、作家の村上春樹氏とのインタビュー記事が地方紙に一斉掲載されたのです。

記事の半ばで、村上氏はどうしたら前向きな姿勢でいられるのか問われ、「体を鍛えて健康にいいものを食べ、深酒をせずに早寝早起きする。これが意外と効きます。一言でいえば日常を丁寧に生きることです。すごく単純ですが」と答えています。ここには食べる・動く・眠るの3要素が見事にそろっています。

本書の中でラス氏は「日常生活で正しい選択を積み重ねていくことが何よりも大切」と強調しています。まさに「日常を丁寧に生きる」という村上氏の発言と重なります。

一見すると、本書は健康な生活を送るための実用書です。実際は単なる健康本の域を超えています。活力アップで仕事を効率的に片付けつつ、幸せで充実した人生を送るための指南書といえます。だからこそウェルビーイングがキーワードとして出てくるのです。

とりわけ日本人読者にとって大きな意味があるかもしれません。日本は世界第3位の経済大国です。にもかかわらず、経済協力開発機構(OECD)の「幸福度」番付では、2014年に36ヵ国中20位(1位はオーストラリア)に甘んじています。「幸福度」はウェルビーイングと同義と見なせます。