米軍を唖然とさせた日本軍の人命軽視〜重傷病者には「自決」を要求

【特別公開】一ノ瀬俊也=著『日本軍と日本兵』3
一ノ瀬 俊也 プロフィール

医療と性病予防

日本軍医療の実態については、例の元捕虜の米軍軍曹も性の問題とあわせて証言しているので、以下に引用してみたい(IB1945年1月号「日本のG.I.」)。

各中隊に衛生兵がいてマラリアの発作やその他の病気の手当てをする。本当に具合が悪いと幸運にも病院へ送られることがある。

マラリアが兵士たちに悪影響を及ぼす、なぜなら彼らは40~60人で一つの蚊帳の中で寝ているからだ。蚊帳にはいろいろな大きさがあるが、個人用が与えられるのは将校だけだ。キニーネは大量にあるが兵たちは服用法の指示を守らない。多くの者は捨ててしまう。

かくも大人数が一つの蚊帳の中で寝るというやり方について、多くの者が私に不満を述べた。彼らはこのようなマラリアの高感染率が何を引き起こすかを理解できる程度には賢かったのだ。

日本人のきれい好きについてはいろいろ耳にしてきたが、兵営生活で風呂をどうしているのかについて自分の目でみてきた。まず、二つのガソリンのドラム缶を持ってきて上部を切り取る。そして両方のドラム缶に水を入れ、片方の下で火を焚いて暖める。ドラム缶の横に木の床板を置いて足に泥が付かないようにする。湯が適当な温度になると上位の将校が呼ばれて入浴する。数分間湯に浸かり、冷水で洗い流す。兵たちが入浴するたび、湯は控えめに言ってもわずかに濁っていく。30~40人が同じ湯で入浴する。階級が低ければ低いほど長い間待たねばならない。

当時のアメリカ人も「日本人はきれい好き」というイメージを持っていたようだが、実際は先に述べた隊の食堂と同じく、とても清潔とは言えない生活ぶりである。マラリア予防もその重要性は皆わかっていたはずなのに、実態はきわめていい加減で不満を招いた。兵がマラリア予防薬のキニーネを捨ててしまうのは、味がひどく苦いからだろう。

先にIBが日本軍は性病を「軍の病気」とは認めず、ろくに治療もしないと指摘していたことを紹介したが、確かに軍曹の目撃した日本軍部隊でもそうだった。

兵営のある街では週に一回外出が許される。食事をしたり音楽を聴く陸軍クラブがある。クラブには現地の女性がいて会話をする。しかし多くの日本兵の目的は買春であり酒である。性病に感染するとしこたま殴られ、わずかばかりの名誉も剥奪される。そのため民間の医者や薬屋へ行ったり、自分で治療しようとする。多くの者が感染している。性病検査はほとんど行われない。自分が捕虜になっている間、わずかに一度きりであった。

日本軍将兵の性病感染率についての正確な数字はもはやわからないだろうが、「感染するとしこたま殴られ」るせいで実際はよけい高くなっていたことが容易に想像できる。

IBとは別の米軍史料である米陸軍省軍事情報局パンフレット『諸外国陸軍の士気向上活動』(1943年5月、前出)は、日本軍将兵の「性的要素」すなわち買春の実情について「将校の間では、芸者と一夜を共にできるかもしれない芸者パーティーがまれに行われる。徴集兵はわずかの金しか持たぬため、その土地の安い売春宿で我慢せねばならない。肉体的な欲求は満たせるが、ロマンチックな気分は損なわれてしまう」と解説している。

これは、同書がドイツ軍の性管理について、若くて魅力的、志願した女性のいる衛兵付きの慰安所を軍の直轄下に設置し、兵の買春前に医学的検査をしている、行為時の飲酒は厳禁、相手の女性には兵の勤務記録にイニシャルで署名させている(ポーランドでの事例)と報じているのとはだいぶ様子が異なる。もちろん全ドイツ軍が常にそうだったということではないだろうが。

米陸軍が同書で各国陸軍兵士の買春事情に関心を払ったのは「性病感染率は士気(morale)の明確な指標である」、つまり感染率が低ければ軍の士気は高く、その逆もまた然りとみなしていたからである。

士気は軍隊組織を成立させる重要な要素であるから、これを良好に維持することもまた軍隊に求められる能力のひとつである。一国の軍隊の医療と士気の間には密接な関係があり、その良否が戦の勝敗を左右することもある。だが米軍側の各種記述をみるに、彼らが日本軍に下した評価は、どうしようもなく低いと言わざるをえない。