米軍はいかにして日本兵を投降させたか〜その周到すぎる心理作戦

【特別公開】一ノ瀬俊也=著『日本軍と日本兵』2
一ノ瀬 俊也 プロフィール

心理戦の手法

IB1945年9月号「日本軍の士気──亀裂拡がる」は、日本兵に「降伏」の言葉は厳禁、日本人の心理に照らせば「我々のほうへ来い」「名誉ある停戦」などとしたほうが効果的であるとも指摘している。

「日本人の心に深くしみこんだ『面子(メンツ)を守る』という性質から、受け入れがたい現実を覆い隠すに足る言葉が見つかる。思いも寄らなかった行動も、適切な慣用句が見つかれば、一つの言葉で受け入れられるようになるのだ」。つまり、これは降伏ではなく停戦なのだと自分に言い訳するための理屈を教えてやればよいというのである。

心理戦第一の宣伝手法は宣伝ビラを飛行機から撒くことである。「日本兵によく読まれ、効果があったのは、フィリピンで使われた落下傘(パラシュート)ニュースのような新聞〔形式のビラ〕を撒くことであった。最近の米軍ビラは捕らえた捕虜に試してみることで用法に多大の改善が加えられている」。

第二の手法は拡声器で、「多くの場合、日本兵捕虜がもとの所属部隊に呼びかけることで、アメリカ軍は日本兵を殺さないという絶対的な保証が得られた」。

第三の手法は、「捕虜を捕まえた地域に戻して戦友に投降を勧誘する」ことである。「この手法を拡声器と組み合わせたことで一定数の捕虜が得られた。この任務に出た日本兵で戻らない者はなかった」とされる。

捕虜は米兵の命を救う

IB「日本軍の士気──亀裂拡がる」によると、米軍対日心理戦担当者たちの最大の仕事の一つは、実は味方の「第一線将兵たちに捕虜獲得の必要性を納得させること」であった。担当者たちは味方に次のように呼びかけねばならなかった。

捕虜から得た情報は戦術上も戦略上も大変役立つし、「我々のビラを書くのを手伝い、拡声器で話し、野外へ出て他の捕虜を連れてくる。加えて、戦友に生きて捕まったところをみられた捕虜は、米軍が捕虜を虐待しないことの生きた証である」と。こう言わねばならなかったのは、逆の事態が多発していたからに他ならない。

そうして投降者を一人でも殺してしまえばどうなるだろうか。「日本兵の間に生きている、捕まれば殺されるとの確信を深めてしまう。日本陸軍における噂の伝達が我が方のそれと同じくらい速いのは間違いない。捕虜一人は何千枚ものビラを上回る価値がある。そして、潜在的捕虜を一人殺せばそれ以上の破壊的効果が生じるだろう」。

米軍がここまで捕虜獲得にこだわったのは、いったん捕らえた日本兵捕虜は実に御しやすく、有用だったからである。

「日本軍の司令官が出した膨大な命令は、彼ら自身が、陸軍の大部分を占める単純な田舎者(Simple-Countrymen)は連合軍の尋問官がうまく乗せれば喜んで何でも喋ってしまう、と十分認識していることの証である」。

何でも、というのは捕虜たちが「日本軍の築城計画を図に描き、我が方の地図を修正し、日本軍の戦術的弱点を論じ、味方の陣地占領のため用いる戦術までも示唆」したことを指す。

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