コンピュータに「面白い小説」は書けるか? 「機械派」作家と「魂派」作家が白熱討論!

人間はいったい何に感動しているのだろう
海猫沢めろん, 今村友紀

小説って何ですか?

海猫沢 自分のことでいえば、僕は思春期のころの自分に向けて書いているんだと思う。小説や芸術は、自分がなぜ生まれてきたのか、なぜ生きるのかを問うものだとも言われます。なかなかピンとこなかったけれど、40歳になって、なんだかそれがちょっと分かるんです。そこを突き詰めると、宗教にも近いものになる。

辻原登さんの『東大で文学を学ぶ ドストエフスキーから谷崎潤一郎へ 』という本の中に、「小説って何ですか」という問いがあるんです。それに対する答えで「小説というのは神がいない叙事詩である」いう言葉が出てくる。叙事詩から神様を抜くと、なぜ生きるのかという人間の葛藤や苦しみが残るんですね。やっぱりそれを書くのが小説だなぁと僕も思います。人間が生きる意味、死ぬ意味を考えるとしたら、機械は関係なくなっちゃう。

今村 そうですね。私も、書く目的ということでいえば、それは自分自身のきわめて個人的な問題です。書くプロセスの中に自分と向き合い、没頭する快楽がある。究極には、作品が売れるかどうかも関係ない。そもそも売上部数は書くモチベーションにはなりません。

でも本を作って出し続けるためには、ある程度の数は売る必要がある。そこで機械の出番かなと思うわけです。あるパターンに沿った作品をいいと感じる人が多いのだとしたら、そこは素直に合わせれば良い、と私は思います。そのせいで作品の大枠が決まった状態で書かなくてはならないとしても、創作プロセスに没入する貴重さは変わらない。書くことの楽しみは、書く内容そのものよりは書くプロセスにあるので。

海猫沢 人は案外、プロセスを見ているのかも。機械が作ったものが嫌われるのは、それがないと感じるからかもしれないですね。

(了)

(*1) 小説解析の仕組みを使ったユニークな文学賞「クランチノベルス新人賞」が昨年、今村さんと出版社ディスカヴァー・トゥエンティワンとの協力で創設された。過去のベストセラーのデータをもとに、文章の特徴と読者の評価との関連を解析、選考に利用する。第1回の大賞に選ばれた佐久本庸介(さくもとようすけ)さんが、6月にデビュー作『青春ロボット』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を刊行した。今村さんは「予想していなかったほど大変に好評」だとして「小説のもたらす感動とはこういうものだという方法論ができたと思う」と話す。
  『青春ロボット』は、学校でクラスメートに交じって暮らす人間そっくりのロボットをめぐる物語。受賞が決まった後、今村さんが、これまでの小説解析の傾向や、映画の興行収益の分析結果などをもとに佐久本さんにアドバイスし、一緒に完成させた。主人公の抱える困難とその解決に力点を置き、焦点を明確にするようにしたという。
 小説投稿サイト「クランチマガジン」で、レビューを募ったところ〈思いがけない展開に唸りました〉〈久しぶりに感動した作品です〉など、多くの声が寄せられた。佐久本さんは「コンピューターを使って選考されることに特に違和感はなかった。個人的な経験をふまえた青春小説。多くの人に読んでもらいたい」と話している。
いまむら・ともき 作家。本名・石井大地。1986年、秋田生まれ。東京大医学部在学中に作家を志し文学部へ。2011年に『クリスタル・ヴァリーに降りそそぐ灰』で文藝賞。医療ウェブサービスも手がける。
うみねこざわ・めろん 作家。1975年、大阪生まれ。高校卒業後、ホストやゲーム制作者などを経て、2004年に『左巻キ式ラストリゾート』でデビュー。『愛についての感じ』で野間文芸新人賞候補。