〈税金逃れ〉の衝撃!富める者ほど払わない。そのツケ、払うのはあなたです

【前書き公開】深見浩一郎=著『〈税金逃れ〉の衝撃』
深見 浩一郎

われわれ全員の問題

 国が豊かであるということは、その国の中核となるべき中間層が豊かであることを意味するはずである。戦後自由主義経済圏の民主国家の多くが、福祉国家を標榜してきた。これにより充実した医療や介護などの社会保障が約束されているはずだった。

しかし、現実には経済格差の拡大と貧困の増加が、高齢化と同時に進行している。所得の再分配が機能していないのだ。さらに、教育などの機会均等が十分に保証されず、格差の固定化も進行している。

 今後、わが国において中間層の没落があるとすれば、それは政治的不平等がその大きな原因だろう。なぜなら、民主国家においては人口の多数を占める中間層の支持なしに政治は行えないからだ。福祉国家は国民国家であり、その国の大多数を占める中間層こそが国を代表すべきである。

 トリクル・ダウンを信奉する新自由主義的発想では、経済成長と社会福祉政策はトレードオフだとこれまで考えられてきた。しかしIMF(国際通貨基金)は、医療や教育機会の拡大などの社会福祉政策の充実による国民経済全体の底上げも経済成長に重要な役割を果たすことを公表している(*4)。この主張によれば、社会福祉政策の充実によっても経済は成長する。

 また公衆衛生学的にも経済政策は重要な役割を果たしている。安易な経済緊縮策は、実は多くの国民の健康を損ね、自殺率を増加させる要因になる。社会福祉政策の充実が自殺率の低下や国民の健康維持に有益であることはすでに実証されている(*5)。これらのことは図0が如実に表している。

 以上のように、本書において取り上げる租税回避と税の関係は、社会福祉政策を通してわれわれ国民一般にきわめて深刻な影響を及ぼす問題である。これを解決することなく、今後国民国家は福祉国家たり得ないかも知れない。

 本書は専門知識を持たない一般読者を想定して書かれている。読む上で必要な基本的事項は各章で用意されているが、必要な場合は第三章から読み進めることをお勧めする。

 なお、各章は次のような内容で構成されている。

 第一章では税金と法律の関係である租税法律主義の考え方を解説する。武富士事件を通して、租税法律主義の具体的な適用を説明する。

 第二章では税金の歴史を見て、そもそも税負担はどのように測定されるべきかを考える。日本IBM事件を題材として、多国籍企業の行動について説明する。

 第三章は、租税回避を構成要素に分解し、それぞれの特徴を確認している。

 第四章では、タックス・ヘイブンの実態と、タックス・ヘイブンがどのように国際的な租税回避に組み込まれているのかをGoogleの事例で説明する。

 第五章では、国際的な課税の新しい動きについて解説する。

 そして最終の第六章は、これから国際的な租税回避に対してどのようなアプローチで臨むべきか検討している。

(注)
*1 『社会契約論』ジャン・ジャック・ルソー 第2部11章 1762年
*2 『人間と市民の権利・義務の宣言』フランス共和暦三年憲法前文 1795年
*3 「アップル、米議会への証言原稿を公開──法人税制改革の提案も」CNET News 2013年5月21日 http://japan.cnet.com/news/business/35032306/
*4 「Treating Inequality with Redistribution: Is the Cure Worse than the Disease?」Jonathan D. Ostry and Andrew Berg, The IMF Blog 2014年2月
*5 『経済政策で人は死ぬか?──公衆衛生学から見た不況対策』デヴィッド・スタックラー、サンジェイ・バス共著 橘明美、臼井美子訳 草思社 2014年
*6 同18頁

深見 浩一郎
1956年生まれ。東京都出身。公認会計士・税理士。大手都市銀行、大手国内監査法人、外資系コンサルティング会社を経て、2001年に独立。現在、深見公認会計士事務所代表、株式会社ERC代表取締役。