〈税金逃れ〉の衝撃!富める者ほど払わない。そのツケ、払うのはあなたです

【前書き公開】深見浩一郎=著『〈税金逃れ〉の衝撃』
深見 浩一郎

「無国籍」企業

 多国籍企業とは、世界を市場とする企業のことである。かつてはソニーがその代表格だったが、今はAppleを思い浮かべればいい。ソニーとAppleが違うところは、ソニーは需要地に進出して製品を現地生産していたが、Appleは世界を見渡して事業の最適な拠点配置を行っている点にある。

 多国籍企業の事業の最適化行動では、税金も、コストの一つとして最適化される。ビジネスは利益の最大化を目標とするから、コストの一つである税金には最小化が求められる。多国籍企業は、グローバルな観点で租税の最小化に向けた、事業最適化のためのシステムの構築をすでに終えている。

 多国籍企業の国際的な租税回避を考えるときには、「グローバル化」と「国際化」とは違うという認識も必要だ。「国際化」したという場合、企業はまだ収益面で軸足を本国に置いている。だが完全に多国籍化した企業の経営者の意識は、むしろ「無国籍化」に近いと考えた方が適当だろう。

 AppleのCEOティム・クックは、2013年春米国議会の調査委員会に召喚され、次のように証言している(*3)。テーマは、多国籍企業の納税問題だった。事の発端は、スターバックスの英国法人が業績好調で明らかに利益を出しているにもかかわらず、英国で法人税をまったく払っていないことが発覚したことだった。その騒動が米国にも飛び火し、審問されることになったのだ。

「われわれは最後の1ドルに至るまで課された税はすべて支払っている」

 クックCEOは、公聴会の席上、終始一貫してこの姿勢を取り続けた。われわれAppleは、法に則って納税義務を果たしており、何らやましいところはないのだと。

 この主張はもっともだ。民主的な法治国家において法を遵守し税を払っていれば、誰からも非難されるいわれはない。仮にAppleが行っている租税回避に問題があるとすれば、政府が租税回避阻止に向けた法的な措置を早急に講ずればいいだけだ。政府はなぜ動かないのか、長年放置してきた理由は何か。責められるとすれば、むしろその点にあるだろう。政府によるこの無作為自体が、産業育成のための保護主義と捉えられても仕方がないだろう。

現代の「逃散」

 米国では株主至上主義が徹底している。そのため、株主のための利益追求こそがCEOの最優先事項であり、それは国家にも優先するようだ。

 税は企業にとってコストであり利益を圧縮するものでしかない。株主のための企業価値の向上を優先する考え方からは、企業は社会の公器であるという考えは働かない。したがって、多国籍企業はためらうことなく租税負担の最小化に走るのだ。このような社会風潮から米国では、近年、法人税の税収は落ち込む一方である。

 そして、同様の傾向は、多国籍企業の大株主を占める富裕層においても見られる。富裕層は、富裕層向けの銀行であるプライベート・バンクや資産管理の専門家である弁護士などに管理を任せ、資産を海外に移転させ国内での課税を逃れている。また、移住によって完全に課税から逃れるケースも増えている。海外には、移住の促進策などの名目で相続税や贈与税がない国が数多くあるからだ。

 その結果、福祉国家をもっとも支えるべきはずの高額納税者である多国籍企業と富裕層が率先して国からいなくなり、国内市場だけを相手とする中小企業と国外へ移動できない中低所得者層だけに重い税金がのしかかってくる、そんな時代が訪れようとしている。

「逃散(ちょうさん)」とは、重い年貢に嫌気が差した農民が一族郎党こぞって故郷を捨て、流民となることを言った。しかし、今や国を出てゆくのは貧しい農民ではなく、金持ちの商人とその一族という構図になりつつある。