【現役世代必読】
トラブル続出! 認知症で「相続」ができない【前編】
親しか知らない預金口座はどうなるのか

週刊現代 プロフィール

こんな例もある。東京・世田谷区に住む秋山聡子さん(仮名・62歳)は、貿易会社を経営していた父親が、中年の頃から「遺言を書いている」と口にするのを、たびたび聞いていたという。

「認知症が重くなってしまって、父が87歳のときに施設に入れたんですけれども、うわ言のように『遺言が、遺言が』と言うんです。初めは聞き流していたんですけど、あまりに繰り返すので確認しようか、ということになりました」(秋山さん)

ところが、父親は遺言書のある場所を覚えていない。自宅をくまなく探しても見つからない。会社で世話になっていた弁護士に訊こうと名刺を探し、事務所に問い合わせると、「先生は4年前に亡くなりました」との回答。

子供が知らない銀行の貸金庫でもあるのか、と途方に暮れていたとき、先の弁護士事務所からこんな電話がかかってきた。

「公証人役場にある『遺言検索システム』は試されましたか?」

相続する側が認知症の場合

詳細は【後編】で述べるが、遺言のなかには、公証人役場で手続きをし公文書化した「遺言公正証書」というものがある。自宅で手書きした自筆遺言よりも法的信用力を持ち、原本は公証人役場に保管される。これらの多くは公証人役場のシステムに登録され、遺言書を作った人の名前や住所をもとにパソコンで全国どこからでも検索できる。

結局、遺言書が見つかった秋山さんだが「事業を継いだ弟に資産の大半を遺すとあって、母が亡くなってから父の介護をしてきた妹にはごくわずか。父は昔気質の人で、嫁に出したらあとは知らんという主義でしたが、さすがにひどいと兄妹が揉めだした」と嘆息する。

一方、相続する側が認知症を患っている場合もある。横浜市在住の滝本栄治さん(仮名・68歳)の父親は一昨年、90歳で他界した。遺されたのは、87歳の母親と、滝本さん、弟の3人。主な遺産の内容は、父親と母親が暮らしていた自宅の土地・家屋(時価約4500万円)と預貯金1500万円だ。

母親は、父親の死の3~4年前から認知症の症状が進んでいたが、父親が、「俺が面倒を見る。施設には絶対に入れない」と主張、ヘルパーを頼むなどして、自宅での介護をつづけてきた。

「家事なんかしたことのない父でしたし、老老介護で絶対にもたないと思ったけど、私たち夫婦も手伝って、どうにかやってきた」(滝本さん)

そんななかでの父親の死去。滝本さんは相続のことなどわからないからと、近所の行政書士に相談した。すると思いがけないことを告げられる。

「この、認知症でおられるお母さん、第三者の後見人を立てないと、遺産分割ができませんよ」

どういうことか。遺産相続の際には、相続人(相続を受ける人たち)が、どのように遺産を分けるかを話し合う、遺産分割協議を行う必要がある。