【現役世代必読】
トラブル続出! 認知症で「相続」ができない【前編】
親しか知らない預金口座はどうなるのか

週刊現代 プロフィール

「通帳はどうしたの!?」

父親は長年、私立中学校で教員をつとめ、退職後も教育関係の業界団体に再就職するなどした。私生活では派手なことは嫌いで、ギャンブルはもちろん、旅行にもめったに行かない。ごく大人しい人だった。

ところが手元にある通帳では、預貯金は900万円程度。住宅ローンは退職金で完済し、「だいぶお釣りがあった」と話していたことを考えあわせても不可解だった。

「体調を崩した際に入院費などがかかったと言っても、大半は子供が出しました。そんなに減る理由がない」(佐々木さん)

佐々木さんは訊ねた。

「オヤジ、退職金の残りはどうなったんだ。他にも銀行口座があるのか」

父親は、「それは、アレだアレ」と言って口ごもっていたが、やがて「万が一のために、とってある」と憮然として言った。

家に多額の現金を置いておくような父ではない。株や金など投資に興味があるタイプでもなかった。あるとすれば、家族の知らない銀行口座だ。佐々木さんたちは通帳のあった銀行だけでなく、近所に支店のある銀行に、他の口座がないかと訊ねて歩いたが該当するものはない。短気な妹が、

「なんでちゃんと書いておいてくれないのよ。通帳はどうしたの!?」

と叫んだこともあったが、父親はうなるばかりだ。そんなとき、意外な突破口を見つけたのは、母親だった。ヒントは、雑巾にしていた古いタオルの端切れだった。

「これ、銀行の粗品。通帳はなかったけど取引があったんじゃないかしら」

調べてみると、その信託銀行は、以前は近隣に支店があったものの、現在では撤退。問い合わせると、なんと3000万円もの預金が眠っていた。

「『年1回は、残高をお知らせする書類などをお送りしていたと思いますが……』と銀行は言うんですが、父が捨ててしまっていたようでした。聞けば、もし父の死後も遺族が10年間問い合わせずにいると、口座の中身は銀行のものになるという。ヒヤヒヤものでしたよ」

ちなみに、父親が暗証番号を忘れていた銀行口座は、銀行へ父親に同行して口座番号の変更手続きをした。窓口の担当者には、「ご本人がもう少し判断能力がない状態になっていたら、家庭裁判所で成年後見人を決めてもらわないと手続きできないところでした」と言われたという。この成年後見制度についてはのちに詳しく触れよう。