「サイエンスライター」とはどんな仕事? その存在意義を書きます

〈科学的な厳密さ〉と〈わかりやすさ〉の間
保坂 直紀 プロフィール

厳密さをとるか、わかりやすさをとるか

水面の波の物理は、大学ではじめて登場する。波を表す複雑な数式を、テイラー展開、双曲線関数といった大学レベルの数学を使って解く。そうして得られた答えをもとに、「水面の波はこう伝わる」「そのとき水はこう動く」と説明する。話はかなり難しい。

だからといって、ここで数式をはしょると、どうしても厳密さに欠ける。球をバットの真っ芯でとらえていない隔靴掻痒感も残る。「太陽は東から出て西に沈むんだよ」。地球と太陽の関係を、小さな子どもにこうして「天動説」で説明するような居心地の悪さが残るのだ。

新聞社から大学に転職して感じたのは、このような説明は、大学の教員は好まないということだ。「地動説」が正統な知であるからには、みずから「天動説」で説明することをいさぎよしとしない。科学コミュニケーションの研究論文にも、専門家は、世間が求める以上の正確さにこだわるものだと書いてある。

「天動説」で説明するくらいなら、書かないほうがましだ……。その気持ちは、よくわかる。だが、それだと初心者は、最初の足がかりをつかめない。まず「天動説」から入ってもらえれば、つぎに「地動説」へと進めたのに。

きっとこのあたりに、世間からいまひとつ認知されていない「サイエンスライター」の存在意義がある。

『謎解き・津波と波浪の物理』に数式はでてこない。そもそも波はどう伝わり、なぜ津波は巨大化するのか。海岸の波は、どうしていつも向こうからこちらへ押しよせてくるのか。

厳密さにこだわると説明できなくなるそういった「キホンのキ」を、なんとか書きたかったのだ。これは、海流が流れるしくみについて12年前に書いた姉妹編の『謎解き・海洋と大気の物理』とおなじ方針だ。