「いま必要なのは、“とりあえず観ろよ”のスタンス」 気鋭ビデオブロガーが語る、スマホ動画消費の違和感と理想

Ari Keitaさんインタビュー
佐藤 慶一 プロフィール
VEST MEDIAを撮影しているセット

「スマホで数秒の動画だけ消費しているのはマズイ」

ところで、最近の動画閲覧においては、数秒の短い動画が、若い世代を中心に流行している。しかし、アリさんはこのトレンドに異を唱える。20~30代は作りこんだものを観てくれて、共感してくれるんだ、と。

「なんとなく動画の尺って決まっているじゃないですか。スマホなら数秒~数十秒、PCなら数分。ただ、それでも、数十分の長さの動画も観せていかなければいけないと思うんです。スマホでさまざまな情報に接していると、本さえ(長すぎて)読めなくなっているんじゃないか、という記事を読んだことがあってすごくショックでした。

もちろん、スマホだと数分でもキツイことはわかっています。でも、数秒の動画だけ消費しているのはマズイと思うんです。アメリカでは、映像であれば『VICE』、文章であれば『Medium』といったメディアやプラットフォームがあります。長い動画を「とりあえず観ろよ!」、長文を「お前らいいから読め!」というスタンスがひしひしと伝わってくるじゃないですか(笑)。そのスタンスがいま、本当に必要だと思っています」

アリさんは、ひとつ、例を教えてくれた。カンフーとアクション刑事を組み合わせた30分ほどの映像「KUNG FURY」だ。エンタメ作品ではあるものの、いまの時代においては長めの動画にもかかわらず、2000万回再生を記録。もちろん、その背景には、Apple TV‎やNetflix、Chromecastといったものが普及し、長尺の映像を見る習慣があるという、英米圏ならではの事情もあるのだろう。

アリさんは言う。「ソーシャルゲームやお笑い動画などに多くの時間を取られてしまっています。もちろん娯楽も大切ですが、それだけを消費するだけではなく、長くじっくりしたものを観てもらえるようにしたいですね。そこで重要なのは誰に観てもらうかということ。ぼくが対象に定めているのは20〜30代です。明らかにこの世代に向けたコンテンツは少ないので、ぼくが世界中の動画からキュレーションして紹介することで、その内容にも共感してもらえたらと思います」。

ただ、動画視聴の長さはデバイスに規定されるところもありそうなので、ただ長いコンテンツをつくったところで、視聴されるかというとむずかしい。今後は、VR(仮想現実)ヘッドマウントディスプレイ「Oculus Rift」やマイクロソフトが開発する、現実世界に仮想世界を重ねる「HoloLens」などに可能性はあるのではないかという。長い映像はもちろん、映像の最先端をもVEST MEDIAで紹介し、未来を先取りしている。

「動画が公開になった瞬間」がいちばん気持ちいい

世界中の動画をキュレーションするVEST MEDIAが成立しているのは、ひとえにアリさんの情報収集への情熱によるところが大きい。「インプットはすごく好き」ということもあり、情報収集で対抗意識を持っているのはジャーナリストの池上彰さんだという。

アリさんの生活は、規則正しい。毎朝5時半に起き、家事をしたあと、新聞と経済誌、日経新聞電子版やウォール・ストリート・ジャーナルなどに目を通す。8〜9時は世界中のYouTube動画を視聴、9〜10時はネットサーフィンでBuzzFeedやDiggをはじめ国内外のメディアやブログを読む。情報を効率的に収集できるfeedlyやRSSは利用しない。「そういうツールは便利ですが、自分の好きな情報しか目を通さなくなるので、偏っちゃうじゃないですか」。あくまでブックマークが中心、偏らない情報収集を心がけ、1日分すべてに目を通す。

10〜11時には、気になった記事や映像はInstapaperやEvernoteなどに一旦まとめる。そのあとはスタジオに移動し、動画撮影をおこなう。撮影後の移動中にはまとめたコンテンツをチェック。帰宅後は翌日の台本をつくり、就寝前にもまとめた記事や動画を観るという。就寝は10時半。このような生活を1年半近く続けている。情報収集に関してストイックで、執念すら感じる。

ストイックさは、情報収集以外にも及ぶ。アリさんは、編集を独学でやってきたそうだ(いまでは編集担当がいる)。最初の1年ほどはiMovieで編集をおこない、Final Cutを経て、現在はAdobe Master Collectionを利用している。ここまで続けられたのは「好きだから」だ。そんなアリさんがビデオブロガーとして、いちばん気持ちいいのは「YouTubeに予約投稿して、動画が公開になった瞬間」だという。

最後に、日本で動画メディアやサービスが活況だが、これについてはどう思っているのか聞いた。「5年前からいた市場が活性化されているのは、純粋に楽しいです。昔はYouTubeで暮らすというと『お前なに言っているの? 働けよ!』って言われましたから(笑)。ただ、この盛り上がりが一過性にならないように、ビデオブロガーとして、キュレーターとして、活動していきたいです。そうしないと、ぼく仕事なくなっちゃうんで」。短い動画ではなく、長い動画を同世代に観てもらいたいという考えのもと、アリさんとVEST MEDIAはこれからも未来を手繰る。

Ari Keita(アリ・ケイタ)
2010年から「ビロガーのアリ」としてYouTubeで活動。"ビデオ(動画)でブログをする人"を指す「ビデオブロガー」の略である、「ビロガー」という造語を生み出す。「とりあえず○○してみた」等、企画性にあふれたものや、旬の時事ネタ、トリビア的なネタを得意とする。現在、YouTubeで「VEST MEDIA」を毎週月曜から金曜の朝8時から配信中。 https://www.youtube.com/user/ARIKEITA113