グアラチンゲタのスタジアムはブラジルらしい、素っ気ないものだった。観客席に椅子はなく、コンクリートが段になっているだけで、申し訳程度に観客席を覆う屋根がつけられていた。
この日は他のクラブと練習試合が行われていた。日に焼けて頭をそり上げた松原は右サイドバックに入っていた。
日本でプレーしていたときに比べると胴回りに肉がついているようだった。本来、フォワードである彼にとってサイドバックは不慣れなはずだった。それでも、キックの質は高く、中央で待つセンターフォワードの選手にきっちりと合わせていた。ただし、センターフォワードの選手はそのボールを得点に繋げることはできなかった。その程度のレベルのチームだった。松原のような選手がいるべきクラブではなかった。
試合が終わると、松原はベンチで観ていたぼくたちのところへ挨拶に来ると、手を差しのべた。
「筋トレしてきますね」
そう言うとクラブの中にあるジムに向かった。
夕刻、ぼくたちはグアラチンゲタの選手たちと同じレストランで食事を取ることになった。そこで松原と話をすることになった。
松原はウルグアイから来たばかりだった。彼にとってウルグアイは高校卒業後、サッカー留学をした場所だ。ぼくが会う半年前、代理人からウルグアイのデフェンソールに移籍するという話をもらったという。ところが行ってみると外国人枠は埋まっており、登録さえできなかった。仕方がないので指導者の勉強をすることにした。
それでもプレーをしたいという思いがあった。そこでシーズンのスケジュールが緩やかなブラジルのクラブが契約してくれるかもしれないという話を聞きつけたのだ。
しかし、時期が悪かった。
州リーグはもちろん、全国リーグも終わりに近づき、ごく一部のクラブを除いてオフシーズンに入りつつあった。そこで軀を鈍らせないために、グアラチンゲタで練習に参加しているのだという。
その夜、ぼくは松原と別れてサンパウロに戻った。
彼がサンパウロに来たのは、それから2日後のことだった――。そのときは彼との付き合いが長く、そして深くなるとは思ってもいなかった。
(つづく)