紳士服のコナカ。スーツが1ヵ月のお給料では買えなかった時代に、企業や官公庁を訪ねて職員に月賦で売る「職域販売」で成長した歴史ある企業だ。その後、郊外に店を構え、大量仕入れによる薄利多売で売り上げを伸ばした。現在は駅前や商業施設で『スーツセレクト』など新業態を展開。創業家を継ぎ、事業を拡大した敏腕、湖中謙介社長(54歳)に話を聞いた。
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出会い
少し前、ニュージーランドの田舎の牧場で、15マイクロン(15mmの1000分の1)のウールを見つけたんです。羊毛は細いほど風合いがよく、従来は高級品でも18~20マイクロンだから驚きました。しかも毛足が長いから、圧倒的に保温性がいい。糸が細すぎて繊細で、長時間着るスーツには向かないため、コートにして『リミテッドプレミアム』と名付けました。
トニーさんという名の牧場主は、ずっと独りで羊の改良を行っていて、私が訪れるとこうおっしゃってくれた。「キミ、やっと来たか。この羊毛の価値がわかって、使いこなせる人物が来るのを待っていたんだよ」と。私こそ、自分の足で素材を探してよかったと感動しましたね。
鼓舞
売れ筋は、シャワーで汚れを流せる『シャワークリーンスーツ』です。オーストラリアのウールの企業と関係がよく、ご担当者から「ウールは汚れが染みこむのでなく、表面に載っているだけ。シャワーで洗い流すことならできるかも」と情報をいただいたんです。開発は困難を極め、社員は幾度か「できません」と言ってきましたが、「できないなら、だからこそ、やってみよう」と鼓舞したことを覚えています(笑)。