もうひとつは、他人の骨と一緒にすることには抵抗があるという人向けの納骨だ。個別に布袋(別途袋代3000円)に入れた上で納めるもので、他人の遺骨と混ざってしまうことはない。
まったく新しい「送骨」だが、実際どんな人々が利用しているのか。橋本住職は、こう話す。
「岡山県在住の男性の場合、奥さんはすでに亡くなっていて、地元のお墓に入っていた。しかし先々のことを考えると、都会に出ている子供たちに墓守りをつづけてもらうわけにはいかない。そこで地元のお墓をなくし、『自分も同じところに入るから、妻の遺骨を受け入れてほしい』とご連絡をいただきました。
本当は自分で持って来たいけれど、高齢で車の運転もできず、新幹線に乗るのも大変だということで送骨を選んだのです」
他には、独り身で認知症を患っていた女性が亡くなり、成年後見人が遺骨を送ってきた例などもあり、さまざまな事情で利用されているという。
なぜ橋本住職は、こうした取り組みを始めたのか。7年前、先代住職だった父の跡を継いで、同院の住職になった橋本住職のもとには、多種多様な相談が寄せられた。
「寝たきりで妻の遺骨を納めに行けない」
「絶縁状態の親戚が孤独死したが、骨をどうしていいかわからない」
そこには親戚関係の希薄化や老老介護など、従来の墓のあり方にこだわっていては対処できない問題も多く含まれていた。
橋本住職は、こう語る。
「納骨を巡って困っている人は、全国に大勢いるのではないか。本来、お寺というのは宗教宗派、人種国籍を問わず、困っている人を助ける駆け込み寺でなければならない。全国の人の役に立つためには、宅配もひとつの方法だと考え、'13年に批判を覚悟で始めたのです」
配送中に紛失したら
大学院修了後、曹洞宗の大本山・永平寺で修行し、のち米スタンフォード大学仏教学研究所研究員となった経験を持つ橋本住職。送骨サービスだけではなく、さまざまな寺院改革を進めている。
「当院では'12年に、檀家制度を廃止しました。長年つづいてきた制度ですが、檀家からみれば、おカネを取られるばかりで選択の自由がない。お墓を他所に移すなら補償しろというお寺もあるなかで、人質ならぬ『墓質』などと言われることもある。いまの時代には合わなくなっているのです。