「創業者こそ日本の優れた教育資産」 東芝創業者・田中久重の学習マンガ企画者に聞く

佐藤 慶一 プロフィール

メインは創業者ストーリーではなく、主人公たちのミッション攻略

参考書作家・船登惟希さん

そもそも伝記といえば、書店や図書館に行けばわかるが、本棚には野口英世やキュリー夫人など国内外の偉人たちがずらりと並ぶ。彼らと比較すると、田中久重はそれほどメジャーではない。そのため、もし親が子どもに伝記を読ませようと考えても、最初に手にとってもらうのはむずかしい。では、船登さんがつくる伝記マンガは従来のものとなにが違うのか

「どうやって興味をもってもらうかについてですが、これまでの伝記とは切り口を変えました。創業者自身のストーリーが主軸ではなく、主人公たちがミッションを攻略していくことをメインに据え、『好奇心』という切り口を打ち出すことにしました。伝記ということで、図書館に置いてもらうことや、熱が高まるキャリア教育の分野でも使ってもらえるかもしれません。就職活動中の大学生やビジネスマンの方にも役に立つ内容になっていると思います」

幼少期から数多くの伝記を読んできた船登さんはそのストーリーを分析する。一般的な伝記マンガは、貧しい幼少期、自己犠牲と努力、歴史的な成果、そして献身的な死といった流れが王道。世の中のマイナスをゼロにしたり、少しだけプラスにするといったものが多いというなかで、創業者ストーリーならではのむずかしさもあった。そして既存の伝記への違和感もあるという。

主人公らのミッションを阻む敵キャラがたびたび登場する

一人の活躍だけでなく、次世代の育成や巻き込みも重要

「創業者のストーリーはプラスの状態をさらにプラスにする、豊かななかでより豊かな世の中を実現するものが多く、偉大さをコントラストでは見せにくいんです。そこで、困難を強調することにしました。たとえば、江戸でのからくり人形の興行が大雨となり人が集まらなかったことや、大阪では大塩平八郎の乱で街が燃えるエピソードが出てきますが、それらを集団Xという敵キャラを登場させ、ただのストーリーではない印象づけの仕方をしています。

『とにかく勉強しよう』『苦しくても努力しよう』といったメッセージが散見される伝記も多くありますが、そういう美学ではイノベーションは起きず、ロールモデルにもなりえないと思います。今回の本では、『経済的に安定したから』『実績を積んで大きなチャンスをつかみ、さらにそこで成果を出したから』といった現実的な部分をしっかり書きました。しっかり稼いだことで、次の発明に向けて投資することができたのは重要なポイントだと考えています」

ところで、からくり人形で名を上げた久重はその後、佐賀の理化学研究所・精煉方に入る。そこで西洋科学を取り入れ、日本初となる蒸気機関車の模型をつくり、その過程にまわりのさまざまな人を巻き込んだ。船登さんは、そんな久重のストーリーの魅力を次のように語る。

「彼はひとりでも蒸気機関車や蒸気船の模型をつくることはできたんですが、本物の蒸気機関車をつくるときには、ひとりではなくチームで達成しています。個人で完結していたら、研究者として有名になっただけかもしれません。人を巻き込んだことで、東芝の基礎となる芝浦製作所を創業し、後輩らが大きくしていきました。彼が育てた後輩のなかには、沖電気の創業者をはじめ独立した人物も何人かいます。伝記というと一人の活躍が目立って終わりですが、次世代の育成・継承や仲間の巻き込みも重要だということが伝わればと思います」