少年Aのベストセラー『絶歌』 どう読むのが正しいのか

青木理×香山リカ×中島正純
週刊現代 プロフィール

愛情を受け止めるのが苦手だった彼が、家族で唯一、情緒的なつながりを感じられたのが同居していた祖母。彼女は、彼のことを全面的に受容してくれていた。だけど、その祖母が亡くなった瞬間、情緒的な結びつきが、ぷつんと失われてしまった。

青木 陳腐な表現が多い一方で、14歳から6年間も社会から隔離され、その後は職を転々としてきた人間がよくこれだけのものを書きあげたなと感心する部分もあります。

中島 自己陶酔も感じられるのですが、きっと頭はいいんでしょうね。

香山 彼はもともと知的能力が高くて、そのせいで、自分の異常性を家族や周囲に隠すことができてしまったんでしょう。

青木 僕はこの事件も彼自身も取材していませんから、彼の人格や心理について軽々に推測するのは避けたいと思います。ただ、本の記述からは、他者からどう読まれるか、どう受け止められるかという点の深い洞察が欠けていると感じます。

香山 彼は視覚で見たものを丸ごと記憶して忘れない、「直観像素質」の持ち主と精神鑑定で説明されています。

このタイプの人は、自分が体験した映像を、端から端まで再現しないと、言葉に落とし込めない。逆に、要約して話すことが苦手。そういうある種の才能の持ち主だということが、分かりますね。

青木 猫を惨殺して性的な興奮を覚える描写などは、ひたすら生々しく読むのが辛いぐらいです。

中島 具体的な殺害シーンが描かれていないのがせめてもの救いです。この記憶力の持ち主なら、克明にその場面を描けたはず。そうしなかったのは、出版社の編集が入ったとしても、本人の自制が働いたところもあったのではないでしょうか。

青木 一方、少年院からの退所後を描いた第二部を読むと、彼が本質的なところで変わったのかどうかはともかく、さまざまな人たちの支援や他者との交わりの中で、それなりの人間性や社会性を構築してきたことが読み取れます。

香山 確かに彼は学習して社会性を身につけていますよね。仕事場で仲良くなった中国人の後輩が少年と一緒に写真を撮ろうとしたとき、急に激高してカメラを壊してしまった場面がありました。

だけど、その後、自責の念にも駆られている。そういう人間味の芽生えがある。だから年月をかけ、周囲が手厚くかかわっていくことによってここまで変われるんだという事例ですよね。

青木 その点に関しては、僕たちがこの本から汲みとる教訓がある。犯罪に手を染めてしまっても、あるいはその恐れのある少年であっても、周囲の真摯な支援があれば、徐々にではあっても社会性と人間性を身につけ、自らを抑止できる。彼の場合、知的な能力もそれなりにあるわけですから。