防衛事務次官・西正典に聞く、オックスブリッジに学ぶ安全保障の神髄「歴史を押さえて物事の広がりを見よ」

オックスブリッジの卒業生は、いま
オックスブリッジ卒業生100人委員会

皇太子様と同じ場所で学んだ日々

-私はオックスフォードで「難民・強制移住」を研究しました。自分にとって新しい学問で大変でしたが、非常に良い勉強になり、やはり自信にもつながりました。西次官は何を研究されたのですか?

僕の場合は論文を書く上で、指導教官と相談して、「日米安保の起源における英国の役割」という話に絞り込みました。その中で出したコンセプトは、講和条約と日米安保というのは不可分だというもの。そして、なぜそれが成立過程から不可分なものとして育っていったのか、というトピックを立てました。それが1983年から85年。

その10年後に、今度は米国のAtlantic Councilに1年程行ったんですが、さらに発展させて、講和条約と日米安保と日本国憲法の解釈が「三位一体(Holy Trinity)」で、それらを結んでいるものは冷戦であり、その冷戦が終わった以上、この三位一体は失われ、当然憲法の解釈が変わる可能性があると考えていました。それが1996年でした。だから、留学後10年間、自分が実務をやっていく中で、コンセプトが育った。その意味で、オックスフォードでは役に立つ置石をしたんだと思います。

-留学中に知り合いになった方の話をされていましたが、いまだにその関係は続いていますか?

僕の留学時期はちょうど皇太子様と重なっていました。皇太子様はマートン・カレッジにいらして、僕がトリニティーで、色々な折にお顔をあわせる機会があった。面白いのは、その後防衛省の事務次官になって、政府専用機で皇族が外遊される際にお見送り・お迎えがあるんですが、皇太子様のお見送りに上がったら、気が付かれて、「何でいらっしゃるんですか? 」とおっしゃっる。「実は事務次官になったので、お見送りをすることになりました」と申し上げたところ、大変喜ばれて、雅子妃にわざわざ紹介してくださったんです。

雅子妃は隣のベリオル・カレッジのご出身で、僕のカレッジとは大変なライバル関係にあるので「あら、トリニティー」とびっくりされていたんです。二度程皇太子様をお見送り・お出迎えしましたね。その時はお互いに懐かしい顔に会ったという感じがあって、それは今までで一番うれしいことですね。

西正典・防衛事務次官(写真:防衛省提供)

古典を学ぶ意義

-オックスフォードで経験したこと、学んだ意義について、読者に対してメッセージをいただけないでしょうか?

ちょうど僕がオックスフォードに行った1983年は、今の人たちにとっては理解し難いかもしれないけれど、ソ連がアフガンに侵攻した数年後だったんです。当時の米国にとっては、ソ連がアフガンに侵攻した、このまま放っておくとパキスタンを経由してインド洋に出てくるぞ、という恐怖感がありました。

それに対して、ハワード教授は「それは絶対にない。19世紀の末にロシアと英国とは三度にわたってアフガンで戦争をした。その教訓は何かと言うと、アフガンというところはヤギと羊とアフガン人以外は住めないということだ」と。ある意味英国人らしい皮肉な言い方ですが。「共産主義・共産革命はロシア人を愚かにしてしまった。歴史の教訓を忘れるということは非常に危険なことだ。歴史の教訓を前提に物事を理解しておかないと判断を誤る」というハワード教授の言葉はまさに至言でしたね。