【物件選びの知恵009】
「学区」を重視?「社会保障」を重視?
子育て層のための不動産選びの秘訣、教えます!

辻 優子

社会保障で住む街を選ぶ

これは筆者が以前勤務していた不動産会社での実体験だが、県境(市境)付近の住宅を販売していたときのこと。「市からの助成金が今より減るので、この地域への住み替えはしない」という人がいた。

A県A市にある担当物件は、歩いて1・2分もかからない距離にB県B市との県境(市境)があった。周辺に公園も多く緑豊かな場所に建つこの物件は、同じ地域内で売られていた他の分譲住宅に引け劣らず見学者が多く、A市・B市のいずれからも見に来る人がいた。

ところが、販売が進むほどに、B市から来ている見学者の契約が進まないことがとわかった。

さんざん悩んだあげく契約しなかった家族のいくつかから言われたのが「ここがB市だったら決めていたと思う」という理由。A市とB市では子育て世帯への医療費の助成制度が大きく異なっていた。

契約しない理由はこれだけではないとしても、いくつもの家族から「B市だったら」という言葉が出てきたことを考えると、決定要素の一つであったのは間違いないようだ。

こんなに違う「医療費助成」

同じ東京都内でも区や市で社会保障の内容は多少異なり、たとえば世田谷区では出生~中学校3年までの全ての子供に医療費助成があり、基本的に保険診療について親の費用負担はない。

対して、隣接する狛江市では6歳までの未就学子供について費用負担はないが、就学児童の医療費助成については親の所得制限がある(参考:扶養人数1人の場合、所得制限限度額660万円)。そのため、所得制限で助成対象外になる家庭は、小学校1年から中学3年生までの通算9年間について、医療費は保険診療の自己負担分を払うことになるのだ。世田谷区が目と鼻の先であっても、費用負担に差が出る。

ちなみに東京都に隣接する神奈川県川崎市では、0歳児こそ全世帯が医療費の負担なしだが、1歳児以上は所得制限がある(参考:扶養人数1人の場合、所得制限限度額668万円)。所得制限により医療費助成の対象外となっている川崎市に住む家庭は、前出の世田谷区の住民と比較すれば、14年もの間、子供の医療費を多く支出することになるのだ。

子供は怪我や病気にかかることは日常茶飯事。期間も長いことから、医療費助成制度の違いは家計にも大きな影響を与え、住み替えるときに気にする家庭があるのも頷ける。