イギリスは本当にEUを離脱するのか? 
アメリカとの不協和音からスコットランド独立の動きまで
「ふしぎな国」の謎を読み解く!

笠原 敏彦 プロフィール

EU離脱の可能性は?

Q:総選挙に勝利したキャメロン政権は、2017年末までにEU離脱を問う国民投票を行うと表明しました。目下、EUは財政危機にあえぐギリシャの離脱問題で迷走しています。この混乱が続くようだと、英国民がEU離脱という選択肢を選ぶことも十分あり得そうに思いますが……。

笠原:確かに、EUは現在も、ギリシャの財政再建問題という爆弾を抱えています。ギリシャのEU離脱の可能性がなくなった訳でもありません。

アフリカ大陸や中東から押し寄せる移民の波への有効な対策も打ち出せず、移民急増が加盟各国の社会的な不安定要因となっています。ブリュッセルのEU本部に対する反発が高まり、ポピュリズムが極右政党の台頭などを招き、政治が不安定化しています。国民投票が実施される際に、EU情勢がどうなっているかは、その結果に影響を及ぼすことでしょう。

近代合理主義を育んだイギリス人が世襲の君主制を支持しているのはなぜか? スコットランド独立はなぜ防げたのか? イギリスは本当にEUから離脱するのか? など、イギリスにまつわる様々なエニグマ(謎)を読み解く意欲作

しかし、キャメロン首相が国民投票を約束したのは、与党・保守党内に存在する強硬なEU離脱派を宥めるためです。ユーロ危機を受けて「ほら、みたことか」と党内の離脱派が発言力を増し、無視できなくなったのです。

ただ、この勢力は下院保守党議員の4分の1ほどだとされ、キャメロン首相自身は、EUに残留することがイギリスの国益だと確信しています。

なにしろ、イギリスの輸出の6割は、EU域内向けです。国際金融街シティも、EU内にあることによって大きなメリットを享受しています。経済的、合理的に考えれば、イギリスにとってEU離脱という選択肢はないのです。

また、イギリス国民は保守的です。急激な改革は望みません。イギリスでは過去に2度国民投票が行われていますが、1975年の欧州共同体(EC、現在のEU)の離脱を問う国民投票も、2011年の選挙制度改革を問う国民投票でも否決しています。

個人的な予測でしかありませんが、私は、よほどの劇的な情勢変化がなければ、イギリス国民はEU残留を選択すると考えています。

笠原敏彦(かさはらとしひこ)
毎日新聞編集委員兼紙面審査委員。1959年福井市生まれ。東京外国語大学卒。1985年毎日新聞社入社。京都支局、大阪本社特別報道部などを経て外信部へ。ロンドン特派員(1997~2002年)として、ブレア政権の政治・外交、ダイアナ後の英王室、北アイルランド和平などのイギリス情勢のほか、アフガン戦争、コソボ紛争などを現地で長期取材。2004年米国務省のIVプログラム(研修)参加。ワシントン特派員(2005~2008年)としてホワイトハウス、国務省を担当し、ブッシュ大統領(当時)に同行して20カ国を訪問。2009~2012年、欧州総局長(駐ロンドン)。滞英8年。共著に「民主帝国 アメリカの実像に迫る」(毎日新聞社)など。