イギリスは本当にEUを離脱するのか? 
アメリカとの不協和音からスコットランド独立の動きまで
「ふしぎな国」の謎を読み解く!

笠原 敏彦 プロフィール

逆に言えば、「パックス・ブリタニカ」と「パックス・アメリカーナ」の時代が続いてきた過去2世紀超の時代において、英米流の世界標準が普及したことには合理性があるのではないでしょうか。

ご指摘の通り、英米両国と日本を比べるだけでも、自由を信望するイギリスとアメリカの価値観が決して世界の主流でないことは明白です。グローバル経済の下で、各国とも経済格差の拡大に陥っていますが、格差拡大は、1970年代後半の英語圏、特にアメリカとイギリスで、ITなどの技術革新や経済のグローバル化を背景に広がったとされています。

物事には、ポジティブな面とネガティブな面があるのが普通であり、米英両国が主導してきたグローバル化にも当然、民主主義の拡大や、公海の自由航行、国家間の垣根を低くしたことなど多くのポジティブな貢献はあります。

しかし、その一方で、短期的な企業利益や経営陣の利益を最優先し、「強欲資本主義」「カジノ経済」とも揶揄される、行き過ぎた市場原理主義の拡散が、各国で弊害を拡大していることも現実です。

スコットランド独立の気運はなぜ高まったか?

Q:イギリスは、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドという4地域からなる連合王国です。広く知られている事実ですが、日本人にはわかりにくく、実感をともないません。しかし、昨年のスコットランド独立をめぐる住民投票は、イギリスが異なる4つの「ネーション」が寄せ集まった国であることを、広く知らしめました。それにしても、なぜ、21世紀になって、スコットランド独立の気運が高まったのでしょう?

笠原:イギリスという国家の在り方を見ていると、国家とは、時代とともに変わってしかるべき「生き物」であることを実感します。歴史上、多くの国家がその姿を変えてきたように、現在も、そのモメンタムが蠢いているということです。

現在のイギリスは、歴史の変遷の中で、4つの「ネーション」から成る連合王国となっています。日本人には、この「ネーション」という感覚が分かりにくい。

ここで言うnationは、一般的な日本語訳の「国家」ではなく、「言語や文化、歴史を共有し、民族的、社会的同質性を持つ共同体」というぐらいの意味です。主権を持った「独立国家」を指す一般的な英単語はstateです。この違いについて、イギリスの有名な歴史家ノーマン・デービス氏はその著書で「国家(ステート)により与えられる市民権とは異なり、ネーションという地位は個々人の国家的(ナショナル)な共同体に帰属する意識に拠るものである」と述べています。

ですから、300年ほど前に連合王国の一部となったスコットランドで独立機運が盛り上がるというのは決して驚くことではないのでしょう。逆に言うと、それに驚く日本人の国家観というものがあまりに固定化、画一化していると言えるのではないでしょうか。