イギリスは本当にEUを離脱するのか? 
アメリカとの不協和音からスコットランド独立の動きまで
「ふしぎな国」の謎を読み解く!

笠原 敏彦 プロフィール

英米関係の転機は、イラク戦争です。イギリスはこの戦争の失敗で、「特別な関係」という幻想がもたらす危険性に気づいたのです。

イギリスはアメリカの戦争に付き合うことなどで、アメリカへの一定の影響力を持ち、そのことを、世界への影響力を確保する一つの手段にしてきました。英語では、実力以上に影響力を発揮することを”punch above her weight”と言いますが、イギリスはまさにアメリカに寄り添うことで、そうしてきたのです。

しかし、多くのイギリス兵を失い、国際的な信用を失墜させたイラク戦争で、この戦略の危うさを思い知ったのです。だから、イギリスは、アメリカが現在主導するシリアでのイスラム過激組織「イスラム国」攻撃には参加していません。

一方、ユーロ危機を経た欧州では現在、ドイツが経済面のみならず外交面でも急速に存在感を増しています。ウクライナ情勢をめぐり、欧州を代表してロシアと向き合っているのは、メルケル独首相です。アメリカにとって、欧州での影響力を低下させたイギリスの相対的な価値は低下しています。要は、英米両国にとって、お互いの「利用価値」が低下しているということなのです。

過去2世紀超の世界秩序を見ると、「パックス・ブリタニカ」(イギリスによる平和)を経て、第2次大戦後に「パックス・アメリカーナ」(アメリカによる平和)へ移行しました。

しかし、中国の急速な台頭により、21世紀初頭の現在は、多極化世界ともG2(米中)世界とも、リーダーがいないG0世界とも言われます。国際社会を取り巻く環境が劇的に変化しているのですから、英米関係が変わるのも、ある意味で当然と言えるのかもしれません。

国際ルールとは強者のルール

Q:アングロ・サクソンが、世界の政治経済のディファクトスタンダードを作っていると言われますが、考えてみると、イギリスやアメリカも、世界的な標準からは、ある意味かけ離れた国ですね。昨今の国際問題を見ていると、英米という特殊な国が世界標準を決めていることの弊害が出ているということはありませんか?

笠原:国際ルールとは強者のルールです。明治維新で日本がなぜ、「富国強兵」を掲げて欧米を見倣おうとしたのか。それは、欧米諸国が、経済的に豊かで、軍事的に強かったからです。

少なくも、グローバル化する近代以降の世界においては、その時々の強国が各国のモデルになってきた。だから、中国が台頭する現在の世界では、途上国を中心に「民主主義」や「人権」などを重視しない中国をモデルにしようとする国々が表れ、国際秩序が不安定化しています。