なぜフリーメイスンは「陰謀論」と結びついたのか?

竹下 節子 プロフィール

21世紀になってさえ、アメリカのベストセラー作家ダン・ブラウンは『ロスト・シンボル』でワシントンDCの俯瞰図に建国の父であるフリーメイスンたちが隠した秘密を語り、アメリカ映画『ナショナル・トレジャー』はテンプル騎士団の財宝をアメリカに持ってきたフリーメイスンが独立宣言書に託した秘密を追うことがテーマになっている。

サブカルチャーのご都合主義や事実誤認や捏造、牽強付会などは問題ではない。フリーメイスンとその「秘密」には、今でも強力なマーケットがあるのだ。

今のアメリカでは、売れる陰謀論のテーマとしてのフリーメイスンと、地域の社交クラブ、チャリティ組織化したフリーメイスンが混在している。一方、アメリカ独立戦争を応援したフランスのフリーメイスンは、その後の政変(ナポレオン帝政や王政復古など)に翻弄されつつ、金脈人脈のネットワークや政治的ロビーのひとつとして匿名性を固持する。

アメリカとフランスのフリーメイスンの変遷の違いを観察すると、じつは宗教改革以来ずっと続いている表からは見えない欧米諸国の心性や価値観の差があらわになって来る。

フリーメイスンが生んだ自由の風

陰謀論においては戦争や革命、経済支配などの黒幕であるフリーメイスンだが、じつは近代以降の国際平和運動にたしかな足跡を残している。

19世紀末にはスイスのフリーメイスンが中心になって平和実現のためのメイスンの役割を語る国際大会が開かれた。20世紀に入っても「平和と普遍的同胞愛の名において」スイス、パリ、ルクセンブルクでつぎつぎと国際フリーメイスン大会が開催された。国家と国家の覇権争いの時代に「国際平和」をめざすこと自体が革命的なことであったが、第一次大戦とともに運動は潰えた。

戦後の1921年に「国際メイスン連盟」が生まれたが、普遍主義は国粋主義に拮抗できず、オランダやアメリカに続いてプロシアやザクセンも脱退した。ヒューマニズムと他者理解にもとづくフリーメイスンの平和主義は国家間の外交と軍事を超越する視点を持っている。1931年には、兵器製造販売の禁止、国際警察の設置などの提案を国際連盟の軍縮準備委員会に提出するなど、反軍事平和主義を表舞台で主張したのだ。

けれどもドイツでナチスがフリーメイスンを迫害しはじめ、モラルと和解にもとづくフリーメイスンの平和主義はファシズムの台頭の前にふたたび瓦解した。

しかしフリーメイスンがこのように声を上げつづけたことは、各国でばらばらに平和運動を続ける個人やグループに政治とも宗教とも距離を保つ拠点を提供したという意味を持つ。新たな暴力が広がる21世紀における平和の模索にとってひとつのモデルであると言えよう。

2015年4月、フランス南西部の島から3本のマストを立てた木造帆船がアメリカに向けて記念航海に出発した。1780年、アメリカ独立戦争を支援するため若き侯爵ラ・ファイエットが大西洋を渡ったフリゲート艦「エルミオーヌ」が当時の技術で復元されたのだ。

金や青が華やかな全長65メートルの復元船は米仏両国旗を掲げる。フランス貴族ラ・ファイエットとアメリカ建国の父ジョージ・ワシントンの友情は1777年にはじまった。出自も世代も異なる二人のフリーメイスンを結んだ自由の風は、はたして今も吹きつづけているのだろうか。

フリーメイスン―もうひとつの近代史』(講談社選書メチエ)はそれを探り、願うために書かれたものである。

(たけした・せつこ 比較文化史家)
読書人の雑誌『本』2015年7月号より

竹下節子(たけした・せつこ)
東京大学大学院比較文学比較文化修士課程修了。同博士課程、パリ大学比較文学博士課程を経て、高等研究所でカトリック史、エゾテリズム史を修める。比較文化史家・バロック音楽奏者

竹下節子・著
『フリーメイスン もうひとつの近代史』
講談社選書メチエ 税別価格:1,650円

謎めいた存在ゆえに、陰謀論の格好の対象となるフリーメイスン。秘密に包まれたイニシエーションの実態とは?「自由、平等、兄弟愛」などキリスト教ルーツの価値観を政治から切り離し、「普遍価値」として復権させることが彼らの使命である。アメリカ独立戦争、フランス革命から『シャルリー・エブド』事件まで、フリーメイスンの誕生と変容を辿りながら、西洋近代をもうひとつの視点からとらえなおす。

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