旧日本軍の将兵たちはあの戦争をどう振り返ったか

7年の歳月をかけて戦争体験者の肉声を追った亀井宏氏に聞く

開戦前、国民は日本が朝鮮半島や満州に進出するのは当然の権利だと思っていた。メディア、といっても当時は主に新聞ですが、部数を上げたいから読者が喜びそうな記事を書く。世論が「軍は何をしてるんだ」と尻を叩いて戦争に突入していったという側面もある。ならば国民やメディアにも責任はあるだろうと。

そんな戦争責任を負った者のなかで、いちばん悪質だと思う者をあえて挙げるとすれば、それは新聞ジャーナリズムです。小林の言う「利巧な奴」ですね。敗戦まであれだけ戦意を煽っておいて、敗戦と同時に凄まじい東條バッシング。あれはそうしなければ「お前たちこそ日本を戦争に誘導していったじゃないか」と自分に火の粉が降りかかってきたからでしょう。ナチスに協力したドイツの新聞はすべて廃刊されていることと比較すると愕然とします。

日本人の精神性なんでしょうか、オール・オア・ナッシングとか、黒か白かとか、二元論的思考で問題を矮小化する傾向があるように思います。小林が言うように戦争は歴史の必然ならば、なぜ戦争が起きたのかはそんな単純に判断できることではない。私の父親も陸軍の軍人でした。私が20代半ばのころ、父に向かって「日本はなぜあんな愚かな戦争を始めたのか」と突っかかっていったことがありました。父は吐き出すように一言「仕方なかったんだ」と答えました。そのときは内心「何て言い草だ」と失望したものですが、今ならその意味がわかるような気がします。

――講談社文庫の『ミッドウェー戦記』や『ガダルカナル戦記』を手に取る人には、亀井作品に初めて触れる若い人も多いと思います。そんな読者に対してメッセージをお願いします。

『ガダルカナル戦記』には、飢えや病気に苦しむ兵隊のなかで「もう駄目だ」と口に出した者は必ず死んだという証言があります。逆に、生きて還ることに最後まで光明を感じた者が生き残ったと。戦争は人に苦難を強いますが、そもそも人が生きていくこと自体が苦難に満ちているものです。

ここに描かれている世界は戦争という非日常ですが、困難のなかに光明を見出すという姿勢は、現代人の日常にも通用するものではないでしょうか。死線を乗り越えて生還した人々、そんな日本の先達から現代を生きる日本人へのメッセージ
――そんなふうにとらえていただけたらうれしいです。

また、あの戦争で日本人がどのように考え、行動したのか、ということを知ってほしい。まずは知るということが大切です。昨今かまびすしい歴史認識問題について議論するのであれば、一部のメディアの言い分を鵜呑みにするのではなく、その前に何があったのかを自分の知見として持ち、判断してほしいと思います。私の作品がその一助になれば幸いです。

<了>
講談社・『IN★POCKET』2015年6月号より

亀井 宏(かめい・ひろし)
1934年生まれ。'70年『弱き者は死ね』で小説現代新人賞受賞。30代半ばより太平洋戦争に関する調査を始め、戦場体験者の証言を聞くために全国をまわる。'80年『ガダルカナル戦記』で講談社ノンフィクション賞を受賞。主な著書に『ドキュメント 太平洋戦争全史』『ミッドウェー戦記』(いずれも講談社文庫)、『東條英機』(光人社NF文庫)などがある。 

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講談社文庫 亀井宏の本

『ドキュメント 太平洋戦争全史(上)(下)』
上巻・724円(税別) Amazonはこちら楽天ブックスはこちら
下巻・676円(各税) Amazonはこちら楽天ブックスはこちら

太平洋戦争の研究を「生涯の業」とする講談社ノンフィクション賞受賞作家が、将兵三百人への取材をもとに描く戦場の真実。真珠湾奇襲から終戦の大詔まで、一三四七日間に及ぶ大日本帝国の闘いを辿る。上巻は、日本軍が快進撃をみせた緒戦から、攻守の転換点となったガダルカナル島争奪戦までを収録。

『ミッドウェー戦記(上)(下)』各870円(税別)
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下巻 Amazonはこちら楽天ブックスはこちら

当時、日本海軍機動部隊は世界最強の実力を誇っていた。太平洋戦線における稼働隻数、戦闘機の性能、搭乗員の伎倆と多くの点で米軍を凌ぎ、米国側も「勝ち目なし」と悲壮な覚悟を固めていたほどだった。なのに、なぜ日本は敗れたのか? 今となっては貴重な、将兵たちへの直接取材をもとに著す傑作戦記。
『ミッドウェー戦記』の解説記事はこちら
 => http://gendai.ismedia.jp/articles/-/38295


 

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