ホーチキ 金森賢治社長「戦前、利益が出せなかったときも『安全、安心を創造するのだ」と事業を変えなかった。今も「市場を創造するのは信念』だと感じます」

ドクターZ プロフィール

ベクトル

私が工業高等専門学校を卒業し、弊社へ就職したのは'72年のことです。ちょうど煙のセンサーが登場し、火災報知機の市場は伸びていました。また学んできたことと業務内容が一致したため「この会社のセールスエンジニアなら、私にもできる」と思ったのです。背伸びせず、世の中が今後どちらに伸びるかの「ベクトル」が向いている企業を選んだことが正解だったと思います。

モチベート

若い頃は、火災報知機をどこに設置するか、建築の図面上に設計する仕事をしていました。営業を担当する先輩たちが「これ急ぎなんだ、頼むよ」と図面を持ち込んできます。時には徹夜もして、必死で完成させました。私は顧客の笑顔を見ることもできず、先輩が「次につながったよ」と言ってくれることくらいでしか仕事の成果を実感できませんでした。でも、いい経験でした。晴れがましい舞台もいいけれど、夏、夜の会社で汗をかきかき図面を引き、誰にも誉められず、でも「またやるぞ!」と思うのもいいものですよ。

鍛える お客様と行ったゴルフ場で。よくゴルフに行って足腰を鍛えている。一番右が金森氏

管理とは

肝に銘じている言葉は「経営は結果の管理ではない」というもの。たとえば社員各々に、自分のあるべき姿と現状を比較してもらい、ギャップを認識し、少し高めの目標を持ってもらいます。そして、ゴール(目標)から逆算して日々の行動計画を立ててもらいます。達成できれば、何より貴重な成功体験が手に入ります。達成できなければ、管理職の人間が、本人にも気付かれないようフォローし、達成に向けての手助けをします。会社の成長を促したいなら、まず人の成長を促すのです。非常にシンプルな方法ですね。

100年

トップに必要な条件は、公平さだと思います。トップは、やろうと思えば何でもできてしまう。たとえ、みんなが心の中で反対していることであっても「社長が言っているんだからしょうがないや」と周囲を従わせてしまえる存在なんです。だから私は、会議の前、社員に必ず「発言して下さい」とお願いし、公平なジャッジにつとめます。私が意見を聞かずに進んだら、弊社100年の歴史をあやまることにもなりかねません。

創造

弊社の歴史には、誇るべき時代があります。戦時中、社内で自社工場を軍需工場に変えてはどうかという議論がありました。しかし弊社は、利益が出せずとも「安全、安心を創造するのだ」と自社の事業を変えませんでした。今も「市場を創造するのは信念なのだ」と感じます。だから私も、たとえば海外で品質のよいセンサーを300万個売る計画を掲げるなど、様々なチャレンジを重ね「ホーチキがあってよかった」と言ってもらえるように、弊社事業をさらに拡大していきます。

(取材・文/夏目幸明)
『週刊現代』2015年6月1日号より

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日本一社長を取材している記者の編集後記

金森氏の「市場を創造するのは信念だ」という言葉が非常に興味深い。どのような事業にも、研究にも、必ず「死の谷」が存在する。開始直後には、お金とマンパワーばかりかかり、結果が出ない時期が存在するのだ。たとえばソニーは、'70年代にデジカメの心臓部であるCCDの開発を始め、結果が出るまでに20年近い歳月を必要とした。だが、開発を推し進めたソニー第4代社長の岩間和夫は、「ライバルはフィルムメーカーのイーストマン・コダック社」「この投資の回収は21世紀に行う」と、死の谷にあった事業に投資し続けた。本当に実現する未来に投資し続ける「骨」があるか。経営者の器か否かの鍵はここにあるのではないか。