大山さんは、'00年代に入って、二度の大病に襲われている。
一度目は、'01年に発見された直腸がんだ。30代の頃から通っていた人間ドックで悪性のポリープが見つかり、手術した。
大山さんは高校2年生のとき、母親をがんで亡くしている。若い頃は自分も早死にすると思いこみ、一生独身を通そうと考えたほどだったというから、自身のがん発見の衝撃は大きかったろう。
だが今回、砂川さんは、「そのときのほうが、いまよりも楽でしたね……」と苦しさを吐露している。
大山さんの二度目の大病は、今回の認知症と深く結びついている。'08年、身体の異変を感じた大山さんは、校長をつとめていた西新橋の音響芸術専門学校からタクシーに乗り、そのまま新宿区の慶應病院に駆け込んだ。心筋梗塞だった。
「薬で(血管に)詰まったものを流したんだけど、それが他に飛ぶんですよね。うち(大山さん)の場合は、それが脳の前頭葉に行っちゃった」(砂川さん)
前頭葉は、感情のコントロールや記憶の形成をつかさどる。心筋梗塞が「飛び火」した格好で起こった脳梗塞によって、大山さんの脳は、人格の根幹をなす重要な部分に深いダメージを受けてしまった。
「(同じく脳梗塞になった)長嶋(茂雄)さんのように、右半身が麻痺したとか、そういうことはないんです。ただ記憶(が混乱したり)とか、怒りっぽくなったりとか……」(砂川さん)
一気に悪化することも
前述のように、大山さんの症状を、ずっと、「脳梗塞の後遺症だと思っていた」という砂川さん。
だが専門家は、「はじめは別の病気であっても、脳へのダメージがときに認知症の引き金となってしまうこともある」と判断の難しさを指摘する。
全国在宅療養支援診療所連絡会会長で、認知症に詳しい新田クリニック院長の新田國夫医師は、こう話す。
「脳梗塞の後遺症は一般的に高次脳機能障害と呼ばれます。これがアルツハイマーのような、いわゆる認知症とどう違うかというと、脳血管がダメになって脳細胞が死んだか、神経細胞が変化して死んでしまったかだけで、脳細胞が死んでしまうという点は同じなのです」
そのため、言葉が出にくくなったり、記憶が混乱したりと、認知症とよく似た症状も出てくる。
だが、ときに大山さんのように、そこに本物の認知症が重なってきてしまう場合もあるという。