対称性をはかる数学『群論入門』

芳沢 光雄 プロフィール

 一方, 5次方程式は一般に解けないことを基礎から理解する上で,「5文字上の偶置換全体からなる5次交代群は単純群である」という性質を理解する必要がある。当然,ここでも群論は重要な役割をもって登場するが,ガロア理論の本筋だけを急いで学んだ学習者は,概してその証明をしっかり学んでいない場合も少なくないようだ。そこで,その平易な証明を5章の最後に述べた次第である。

 本書の後半では. 2行2列の行列がつくる群を重要な場面で用いる。その背景には,高校数学に関する直近の学習指導要領まで,それらの学びが入っていたことがある。したがって,その群を5章と6章で用いたことに抵抗はないが,学んでいない読者も想定して3章で一通り復習した。

 さて,世の中には「5次方程式が一般に解けないことが分かったからといって,なんの役にも立たない」と言う人達が意外と多くいる。

 私は数学教育活動を始めて20年になったが,このような発言に対して一つずつ誤解を解くように説明してきた20年でもあった。5次方程式に関しても,ガロア理論で現れる「体(てい)」の考え方が現在の符号・暗号の理論の基礎となっているのである。

 その符号・暗号の理論と近い内容に,直交ラテン方陣というものがある。この研究はオイラーが1779年に出した「36人士官の問題」に遡るが(1900年に解決),とくに直交ラテン方陣の完全直交系に関する未解決問題を部分的にも解決することは,符号・暗号の理論の発展にとってきわめて意義のあることだと考える。6章ではその辺りのことにも触れるが,最後にここで述べておきたいことがある。

 それは,直交ラテン方陣の完全直交系に関して解決している内容は,「群」という強力な道具が効く部分である。

「群」が直接には効かないと思われる部分は,人類が未だ手も足も出せない領域だと言えよう。これは,「群」というものが非常に強力な概念であることを示していると同時に,「群」を乗り越えるような素晴らしい“道具”の発見を人類に促しているように思えてならないのである。この方面にも関心をもっていただけることを期待したい。

 本書のオリジナルな原稿には,群の例の扱い方にきわめて分かり難い部分があった。それらの部分を上手に紹介する助言をブルーパックスの小澤久氏にいただいたことが,本書の完成に至る上で、大いに意義のあることであった。また,北海学園大学工学部の速水孝夫氏には原稿を一読していただき,いくつかの重要なコメントをいただいた。さらに,桜美林大学での私の講義を受けたリベラルアーツ学群数学専攻の学生さん達からは,「先生のその説明は分かります」,あるいは「先生のその説明は分かりません」と率直に何度も明るくコメン卜していただき,本書の内容の土台をつくることができた。

 ここに,皆様に心から感謝の意を表す。

著者 芳沢光雄(よしざわ・みつお) 
一九五三年東京生まれ。東京理科大学理学部教授(理学研究科教授)、桜美林大学リベラルアーツ学群教授を経て、現在、桜美林大学学長特別補佐。理学博士。専門は数学・数学教育。『新体系・高校数学の教科書(上・下)』、『新体系・中学数学の教科書(上・下)』(ともに講談社ブルーバックス)、『数学的思考法』、『算数・数学が得意になる本』(ともに講談社現代新書)、『算数が好きになる本』(児童書 講談社)など著書多数。
『 群論入門 』
対称性をはかる数学

芳沢光雄=著

発行年月日: 2015/05/20
ページ数: 176
シリーズ通巻番号: B1917

定価:本体  800円(税別)
     ⇒本を購入する(Amazon)
     ⇒本を購入する(楽天)
(前書きおよび著者情報は初版刊行時点のものです)