人は私を裏切るけれど、リストカットは私を裏切らない?

自傷は「生き延びるため」のものだ!
松本 俊彦 プロフィール

自傷から回復して新しい自分に変わるために

自傷する人は、多くの誤解に曝されています。

いわく、「甘えている」、「弱い」、「人の気をひこうとしている」、「かまってちゃんだ」。

でも、事実は異なります。自傷の多くは、怒りや不安、絶望感といった感情的苦痛をやわらげるために行われます。そして、自傷する人の96パーセントは、一人きりの状況で自傷におよび、そのことを誰にも告げないのです。

要するに、自傷とは、周囲の関心をひくためではなく、困難な状況を独力で生き延びるための行動なのです。

こうもいえます。自傷する人は、「人は必ず私を裏切る、でもリストカットは絶対に私を裏切らない」と信じ込んでいて、「人に頼らない」という点ではむしろ「強い」といえるかもしれない、と。

でも、問題が一つあります。その強さには「しなやかさ」が欠けていることです。

Self-HarmPhoto by Getty Images

周囲の人間にできることは少なくとも二つあります。

一つは、自傷を甘く見ないことです。「リストカットなんかじゃ死なない」とはいえるかもしれませんが、「リストカットする人は死なない」とはいえません。

実際、将来における自殺リスクはきわめて高いことがわかっています。

これはある意味で当然です。というのも、自傷したからといってつらい現実は何も変わりませんし、繰り返すたびに自傷が持つ「心の鎮痛効果」が弱くなっていきます。

やがて、以前は自傷なしでも耐えられたストレスにも自傷が必要となり、早晩、「切ってもつらいし、切らなきゃなおつらい」という状態に陥ります。そのときに自殺の危機が高まるのです。

もう一つは、自傷を頭ごなしに叱責、禁止しないことです。

もちろん、自傷を容認しろというつもりはありません。ただ、急には手放せないことは理解して下さい。それでも、理解ある支援者との出会いのなかで、「人生において最も悲惨なことはひどい目に遭うことではなく、一人で苦しむことだ」と実感する経験を重ねていけば、そこから新しい生き方が拓けてきます。

私は、「最大の自傷は自分を傷つけることではなく、つらいときに人に助けを求めないことだ」と考えています。

こういった本です。よろしかったらご一読下さい。

(まつもと・としひこ 国立精神・神経医療研究センター)
読書人の雑誌「本」2015年5月号より

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松本俊彦・著
『自分を傷つけずにはいられない 自傷から回復するためのヒント』
講談社 1,500円(税別)

本書は、長年、自傷の問題に関わってきた著者が、「自傷行為の当事者に向けて、これまで診察室で伝えてきた、あるいは伝えたいと思った事柄」をやさしく語った本です。「自分を知るため」の前半と、「自傷から回復するため」の後半に分かれており、すぐに役立ててもらえるように、具体的に語っていきます。自傷から回復して新しい自分に変わるための、第一人者の精神科医による手引きの本です。

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