差別がなくならなくても「差別をやめろ」と言い続けることの意味

ニッポン・差別問題の現在地<後編>
安田 浩一 プロフィール

しかし、採択が決まり、それが報道されると、今度は非難の声が上村に寄せられた。
自宅に抗議電話が相次いだ。

几帳面な上村は、そんな電話にも根気強く応対した。ある女性は「ヘイトスピーチを規制する必要はない」と電話口でまくし立てた。

「在日なんて嫌われて当然。税金だって払っていないんだから!」

もちろん、まったくのデマだ。

上村は「そんなことはない」と説明したが、女性は「あなたがうそを言っている」と聞く耳を持たなかった。

 

市役所にも決議を非難する電話やメールが届けられた。すさまじい抗議の嵐に一瞬たじろいだという。

「でも、被差別の当事者であれば、もっと激しい罵倒もされるのだろうと思うと、落ち込むわけにいかなかったんです」

そして、世間はけっして非難一色ではなかった。国立の動きは全国に知られるようになり、ヘイトスピーチ対策を求める自治体決議が全国に広まっていったのである。

2015年4月現在、同様の議会決議をした自治体は全国で40を超える。

桜井誠「引退の理由」

また、「カウンター」と呼ばれる反差別運動に参加する人々により、醜悪なデモや集会が封じ込められている現状も無視するわけにはいかない。

高校生が、大学生が、会社員が、主婦が、ミュージシャンが、劇団員が、年金生活者が、街頭で在特会などのデモに対して抗議の声をあげる風景は、いまや珍しくなくなった。その多くはこれまで「運動」とは無縁の、しかし理不尽な差別に対しては憤りを抱える者たちである。

ときに中指を立ててデモ隊に罵声を飛ばすカウンターに対し、「カウンターの言動もひどい」と冷めた見方をする人々がいるのも事実だが、私は同意しない。

被差別の当事者が「死ね」「殺せ」と、のど元に匕首を突き付けられた状態にあるなかで、運動のあり方を評論している余裕などありはしない。「どっちもどっち」と冷笑するだけでは被害者は救われないのだ。

「差別をやめろ」と言い続けることは、レイシストによって破壊されつつある社会の公平性を取り戻すことでもある。

実際、こうした動きによって、少なくともそれまで差別の主役であった在特会の動員力は落ちている。いや、追い込まれているといってもよいだろう。前出の坂本のように、社会運動と距離を置いてきた者でさえ、危機感を持って立ち上がったのだ。

在特会の設立者であり、8年間にわたって会長を務めてきた桜井誠が同会からの「引退」を表明したのは昨年11月のことだった。

桜井は自らが配信する「ニコニコ生放送」の番組で「組織のトップが変わらないと新陳代謝ができない」と引退理由を説明。そのうえで「個人として活動は続けていく」とした。だが「新陳代謝」を額面通りに受け取る関係者は少ない。