大阪都構想は、マジで洒落にならん話(2) ~「対案がないぞ!」というデマ編~
文/京都大学大学院教授 藤井聡

「都構想」で防災はボロボロに

ここまでダメなものが都構想なのだから、ありとあらゆる側面でボロが出る。そもそも、行政において財源と権限が失われ、その上、五分割によって組織力も技術力も低迷させるのが今回の都構想なのだから、当たり前だ。

中でも深刻なのが「防災」の側面。

大阪は今、南海トラフ地震に直面しており、最悪13万人の死者が懸念されている。とりわけ、津波の直撃を「湾岸区」の被害は深刻だ。

これについて維新側は、湾岸区の人々に「都構想で防災は強くなる」というメッセージを発信し続けている。しかしこのメッセージもまた言語道断なデマだ。

そもそも防災分野の第一人者、河田恵昭京大名誉教授は次のように指摘している。

「防災・減災は選挙の票につながらないと素人政治家は判断し、今回の大阪都構想における大阪市の区割りや大阪府との役割分担において、防災・減災は全く考慮されていない。」

一方、このコメントが記者会見で公表された直後に、橋下市長は次のようなコメントをツイートしている。

「大阪都構想は防災の観点が考慮されていないと言っている学者がいるらしいが、東京都と特別区の防災対策の実務を何も知らないのだろう。防災対策や大都市戦略を実行する実務プロセスを知らない学者は、今の大阪府、市の問題点に気付かない。大阪の防災を強化するには都構想が必要だ。」

これは「噴飯モノ」の発言だ。橋下市長は「実務を知らない学者」と切って捨てているが、河田教授は全国の防災を指導し続けている人物だ。橋下氏と河田名誉教授、防災に関してどちらが現場を知っているのかと言えば、それは一目瞭然ではないか。

しかもそもそも市長は市民の安全を守るべき存在だ。にも関わらず防災の第一人者から「危険」と言われているのに、その忠告を切って捨てるなぞ、言語道断ではないか。市民の命を守るためには、専門家に危ないと言われればまずは話を聞くべきなのではないか。それとも、橋下市長は地震で市民の命が失われてもいいとでも言うのか?

いずれにせよ、大阪市民にとってはこれは深刻な問題だ。ついてはここでは、河田教授の指摘に耳を傾けてみよう。

まず都構想では大阪府が消防を担うと言っているが、今の大阪府には消防局はない。だから、今の大阪市の消防局をそのまま大阪府が担う事になる。その時、大阪府の危機管理室が、それを所管する見通しだが、彼らには当然消防経験はない。

いわば素人がプロの上司になるわけだから、消防力がガタ落ちになるのも当然だ(ちなみに、これと全く同じことが都市計画の現場でも起こり、大阪のまちづくりの実力もまた、ガタ落ちになる http://gendai.ismedia.jp/articles/-/42509)。

ただし、それだけではない。

そもそも都構想の基本思想が「効率化」だ。二重行政の解消などは、その最たるものだし、民営化もその類いだ。しかしこうした「効率化」の姿勢は、防災力の低下、つまり脆弱化に直結している。たとえば、非常階段と普通の階段という「二重」のシステムがあるからこそ、最低限の安心が確保されているのだ。

この点について、遠州美教授(大阪経済大学・地域政策学)は、次のように言う。

「「二重行政解消」を声高に叫ぶことは,市民のくらしをないがしろする維新の政治姿勢を自ら暴露するものに他ならない。危機管理の基本は「ダブルチェック」,東日本大震災の経験から導かれた減災の基本は「多重防御」であることを思い起こして欲しい。」あるいは、塩崎賢明教授(立命館大学・都市計画学)は、「5つの区への再編というのは市町村合併と同じで、地域自治を破壊し、災害時に大変な困難をもたらすことが、東日本大震災で明らかです。」 

つまり、「都構想」が実現すれば、自ずと防災力は低下していく他ないのだ。このまま都構想が実現してしまえば、大阪市民、とりわけ深刻な津波被害が懸念されている「湾岸区」の住民は、文字通り枕を高くして寝られなくなるだろう。

つまりこれは文字通り、「マジで洒落にならん」話としか言いようがない。何しろ、大阪市民の「命」がかかっている話だからだ。