では、本当に箱根山で大噴火が起きたとき、被害はどれほどになるのか。島村氏が続ける。
「直近で箱根山が大噴火したのは、3000年程前とされています。このときの火砕流が、外輪山の内側を埋め尽くし、現在の仙石原をつくり、川をせき止めて芦ノ湖もつくりました。
また、さらに甚大な被害をもたらしたと考えられるのは、箱根山が大噴火した約9万年前。このときは、約50km離れた横浜まで、火砕流が流れついた。これは、地質学的な調査で分かっています」
毎年多くの観光客が訪れる箱根には、旅館や別荘が無数に立ち並んでいる。火山近くに居住しているのは約1万5000人、一日に訪れる観光客の数は、およそ5万人にものぼる。
大涌谷を擁する箱根山の最高峰・神山は、'01年の群発地震以降、山腹のあちこちに新たな亀裂が走りはじめた。その亀裂は拡大し、ついには観光客を乗せた観光バスが通る県道734号脇まで達している。
しかも箱根山の火山ガスは有毒な硫化水素や二酸化硫黄を含むことで知られている。もしこのガスにまかれれば、眼や鼻の奥に激しい痛みを覚え、のどをかきむしるほどの苦しみを覚えながら呼吸困難に陥る。
それ以上に恐ろしいマグマからの噴火に襲われた場合には、時速100kmの火砕流が大観光地を走る。逃れられない速さで1000℃近くの火山灰と火山岩が、あらゆるものを溶かしながら斜面を流れてくるのだ。出入り道が少なく、道幅も狭い箱根は大混乱となり、火砕流に飲み込まれていくだろう。
さらに噴火の被害は、箱根周辺だけでは済まない可能性もある。わずか25km程度しか離れていない富士山が、箱根山に連動し、噴火するかもしれないという。
「富士山と箱根山は、数十万年前に伊豆半島が日本列島に衝突した時に同時に生まれた、兄弟のような活火山ですからね。距離が25kmということは、地下でマグマがつながっている可能性もある」(前出の島村氏)
標高3776mの富士山が噴火すれば、被害の大きさも箱根山の比ではない。二酸化硫黄と火砕流は、山梨県や静岡県といった隣接地域を一瞬にして覆うだろう。箱根山の火砕流が横浜まで届いたことから考えて、その被害は関東や中部にまで及ぶはずだ。
当然、御殿場にある自衛隊の演習場も被害を受ける。本来、即座に災害の対応にあたるべき約7000人の自衛隊員たちも機能しなくなる。
これらは確かに、万が一のケースだ。しかし箱根山のあちこちで噴気があがっているのは紛れもない事実。噴火を引き起こす可能性は、決して低くはない。
「週刊現代」2015年5月23日号より
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