『コンテンツの秘密 ぼくがジブリで考えたこと』 本質にいたる思考

コンテンツとは現実の模倣=シミュレーションである

コンテンツが現実の模倣だとすると、コンテンツの進化とは現実のより忠実な再現、つまり情報量の増加と考えてよいのだろうか?現実世界をそのまま映しだす実写映画の方が、アニメ映画よりも優れたコンテンツなのか?「情報量」という言葉はいかにもアートの世界からは遠い、理系的な概念と思われる。ところが、スタジオジブリでは「このカットは情報量が足りない」といった具合に情報量をめぐる会話が頻繁に行われているように、コンテンツの本質に迫るための重要なキーワードなのだ。

アニメプロデューサー石井朋彦さんは、アニメ業界ではジブリ作品の成功は「情報量の多さ」に因るものだと分析されたため、現代アニメの多くはジブリのように線の多いものになっているという。情報量の多いコンテンツは一度では消化しきれず、触れる度に新たな発見があるので、何度でも楽しむことができるのだ。さらに石井さんは、そもそも「アニメを子どもが好きなのは情報量が少なくて分かりやすいから」であり、ジブリを追いかけて情報量を増やした「いまのアニメは難しすぎて理解できなくなってきた」という矛盾が生じているとも指摘する。情報量が多すぎれば理解されないし、少なすぎれば飽きられてしまうというのなら、コンテンツは情報量をどのように制御すべきなのか。

ここで著者は情報量を、人間の脳が認識可能な「主観的情報量」とコンピュータなどで定量可能な「客観的情報量」に分解する。現代アニメの豊富な「客観的情報量」は小さな子どもには認識できない部分が多く、結果として「主観的情報量」の少ない退屈なコンテンツになっているのかもしれない。無限大の情報量を持つ現実世界を理解するためには、脳が理解しやすいかたちに変換する必要があるのだ。この議論を経て、コンテンツの定義はより精緻となる。

小さな客観的情報量によって大きな主観的情報量を表現したもの

この定義にいたっても、まだ本書の議論は1/3程度を消化したに過ぎない。まだまだコンテンツの定義は洗練されていく。その過程にも、脳神経による情報処理とディーブ・ラーニングの類似性、多様性をもたらすと考えられていたUGCがコンテンツの多様性を減らしてしまう理由、天才を必要としないクリエイティブ方法など、読み逃せないトピックが満載である。コンテンツに囲まれた現代を、より豊かに見る視点を与えてくれる一冊だ。

『コンテンツの秘密―ぼくがジブリで考えたこと

作者:川上 量生
出版社:NHK出版

内容紹介
コンテンツの情報量の仕組み、マンネリを避ける方法、「高そうに見せる」手法…ヒットコンテンツの正体と、トップクリエイターたちの発想法!クリエイティブとはなにか?情報量とはなにか?

『ノンフィクションはこれを読め! 2014』HONZが選んだ100冊
作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
内容紹介:キルギスの誘拐婚から現代宇宙論まで、嫌われる勇気からヤクザなキリスト教史まで、世界の"今"を紐解く、ブックガイド!ノンフィクション書評サイトHONZ厳選の100冊。

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