[障がい者スポーツ]
伊藤数子「一方が“してもらい”、他方が“してあげる”という関係はない」

スポーツコミュニケーションズ

 共有できる感覚

 今年の「雪のつどい」には、小学生から70代まで老若男女約100人が参加しました。その中のひとり、50代の谷尾公祥さんは2001年の第26回から参加しています。谷尾さんは24歳で強度の弱視になり、現在はマッサージの仕事をされています。

独自に編み出したフォーメーション。前後に人がいるので安心して滑れる

「こんなに気持ちがええことはない」「自分ひとりでは走ることもできない。日常、風を切るような体験がない」。それがこの「雪のつどい」ではスキーで体感できるのです。それを実行できるのは安心感に他なりません。谷尾さんのグループは、丸山さんをはじめとした指導者が3人、彼の前後についているため、他の人とぶつかることはないんです。「右」「左」と声でナビゲートされながら滑り降りていきます。もし転んでも、雪なので痛くありません。その安心感があるから、思い切っていろんなことができる。谷尾さんはやればやるほど、スキーが上達していったそうです。

 晴天に恵まれた今回は、山頂で景色を楽しんだそうです。360度の大パノラマ。そこから富士山が見えました。丸山さんをはじめとする指導者は見えても、谷尾さんには見えません。しかし、丸山さんたちの「わあ、富士山が見えてるぞ」という言葉や感激している様子、また温度や空気で「ああ、見えるんやろなぁ」と想像することでき、すごく清々しい気持ちになったそうです。視覚ではとらえていなくても、谷尾さんは肌で感覚を“共有”していたということでしょう。

 スキー場は非日常の世界。障がいの有無に関わらず、そういうところに出かける機会を作るのはとても大切なことです。それは参加者の表情を見ても、明らかでした。みんなが笑顔で、とても楽しそう。みんな楽しいからこそ続けられるのでしょう。上達する楽しさや嬉しさは、本人だけでなく教えた人も得られる。それがスポーツの素晴らしさのひとつではないでしょうか。

 こうして、たくさんの参加者のみなさんの様子を見ていて、ふっと思い起こしました。最初に「雪のつどい」のことを丸山さんから電話でお聞きしたとき、とっさに私は「障がいのある人が何名で、ボランティアの方は何名で構成されているんですか?」と尋ねました。丸山さんは「どうですかねぇ」と、すぐに数が出てきませんでした。40回を迎えるこの会。障がいのない人が、障がいのある人のボランティアをするという考え方で行われているのではないのです。だから「参加者は100名」。障がいの有無で分けて意識していないのです。誰かが出来ないことを他の誰かがやる。決してどちらかが「してあげる」、もう一方が「してもらう」関係ではない。だからこそ、みんなで楽しんで、みんなそれぞれが素晴らしい時間を過ごすことができる。40回と続く「雪のつどい」は、障がいの有無を超えて、集う会なのです。

伊藤数子(いとう・かずこ)
新潟県出身。障害者スポーツをスポーツとして捉えるサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。1991年に車いす陸上を観戦したことが きっかけとなり、障害者スポーツに携わるようになる。現在は国や地域、年齢、性別、障害、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するため の「ユニバーサルコミュニケーション活動」を行なっている。その一環として障害者スポーツ事業を展開。コミュニティサイト「アスリート・ビレッジ」やインターネットライブ中継「モバチュウ」を運営している。2010年3月より障害者スポーツサイト「挑戦者たち」を開設。障害者スポーツのスポーツとしての魅力を伝えることを目指している。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。