広島カープの苦境を救え 天才・前田智徳、ただいま参上!

週刊現代 プロフィール

自らのミスを帳消しにする決勝本塁打を放っても、前田は、北別府の勝ち星を奪った自分のミスが許せなかった。試合後のヒーローインタビューを拒否。後日、こんなコメントを残した。

「最悪でもそれぐらいやらなきゃ、取り返しがつかないと思った。自分に悔しくて涙が出た。最後に本塁打を打ったところで、自分のミスは消えないんです」

イチロー、落合も認めた技術

北別府は、当時を懐かしそうに振り返る。

「僕はあの打席、前田の本塁打を予感していました。前田は本塁打を打つために、石毛の変化球には見向きもせず、直球一本勝負だった。案の定、外角高めの直球を、完璧にとらえましたよ。『やっぱり職人だな』と思いましたね。

試合後、守備の後逸を猛省していた前田に、私は『気にするな』と声をかけましたが、前田は泣いちゃって、泣いちゃって……。大変でした」

北別府と前田が、プロ入りするときにお世話になった村上孝雄スカウトを、前田は困らせたことがある。

名門・熊本工高で計3度、甲子園に出場した前田の自宅には、ドラフト直前に8球団のプロのスカウトが訪れた。特に、福岡ダイエーホークスが上位指名を示唆し、熱心だった。だが、実際のドラフト会議では、広島が前田を4位指名しただけで、ダイエーを含めた他球団は指名せず。テレビ中継を見ていた前田は泣き続け、一度はプロ入りを拒否した。

その後、何度訪問しても口を開かない前田に対し、しびれを切らした村上スカウトは、前田に「ホークスは指名しなかったが、俺たちは(指名する)約束を守った。男だったら約束を守れ」と叱責。その後、とつとつと打撃理論を語った。逆に、前田はその村上スカウトの人間性に惹かれ、プロ入り拒否の姿勢から一転、広島入りを決めた。

入団後は打撃の完成形をめざし、前田は、確実にボールをミートして、ヒットにする打法の習得に時間を割いていた。そんな前田の姿勢は周囲から尊敬を集めると同時に、メディアや野球ファンの間で「ネタ」にもなりやすかった。

「ヒットはバットの芯でボールを捉えたものだけを言う」

前田がこう発言したことがあり、その当時、「前田はイチローが嫌い」という説が、まことしやかに広がった。内野安打で率を稼ぐのは邪道である、と前田が言ったことになってしまったのだ。

だが、一流は一流を知る。当のイチローは2歳上の打撃職人をこう評し、常に一目置いていた。