第8回ゲスト:中谷巌さん (前編)
「ピケティが叩かれるのは、強力な富の再分配なしに資本主義が永続できないことを指摘したからです」

島地 勝彦 プロフィール

人口の1パーセントが90パーセントの富を独占する社会

中谷 うーん、ピケティは資本主義体制を覆すべきだというようなことまでは言っていません。単に、資本主義は富を偏在させるから是正すべきだと言っているだけです。そのために、国際的な資産課税の強化を訴えていて、それが世界的に強い反発を生んでいるわけですが、その反発は想像以上に大きいようです。データの取り方が悪いとか、論旨が不明確だとか、経済学の世界でさんざん叩かれるのもそのためです。

日野 お話をうかがっていたらピケティを応援したくなってきました。ただ、現在、格差が拡大しているといっても、19世紀の貴族社会ほどではないわけですよね。

中谷 19世紀のヨーロッパでは、人口の1~1.5パーセントの貴族が全体の90パーセントの富を独占していましたからね。

島地 1パーセントの人が90パーセントの富を独占! すさまじい格差社会ですね。

中谷 ほとんどの市民は資産なんて何も持たず、食うや食わずの生活ですよ。これは島地さんの得意分野ですが、バルザックの小説の多くは、何も持っていない市民階級の男が、いかにして大金持ちの貴族の未亡人をものにするか、というのが最大のテーマです。

島地 よくわかります。あの時代、貧しく有能な若者が富を手にするには、それしか方法がなかったわけですよね。永らく栄華を誇った貴族が没落したのは、先ほどもありましたが、2つの世界大戦ということになりますか?

中谷 2つの世界大戦と大恐慌です。大恐慌が起こると資産価値が暴落します。戦争も同じで、国は貴族に課税したり、国債を買わせたりして戦費を調達しますが、国債なんて戦争に負けてしまえば紙くずも同然ですし、ヨーロッパは戦勝国であっても国土はボロボロでした。しかも、ドイツが象徴的ですが、凄まじいハイパーインフレによって貴族たちが持っていた戦時国債などの資産は、まったく価値がなくなってしまいました。

島地 それで期せずして貴族が没落し、平等といいますか、誰も何も持っていないまっさらな状態に社会がリセットされたと。