【物件選びの知恵001】 アベノミクスの死角。新築過剰と空き家増大で、ますます「エリア」と「建物」の見極めが重要に

長嶋修(不動産コンサルタント)

中古住宅の価値が落ちない

現行の「住生活基本計画」には「既存住宅の流通シェア14%(H20)→25%(H32)」といったあいまいな目標だけが掲げられ、新築建設や中古住宅流通の具体的な数値目標がわからない。

「住宅数の管理」が行われない理由は、国交省官僚による政策の問題ではなく、政治の問題だろう。新築建設業界団体にはただでさえ先輩たちが天下っており、その中で、結果として新築住宅建設を抑制することになるであろう政策を行うのは容易ではないはずだ。したがってここには強い政治力が求められる。

ところが現在の自公政権によるアベノミクスはいわば「新築住宅建設促進政策」である。しかしこれは確かに短期的なGDP増大には寄与するだろうが、空き家といった負債も残すため長期的に見ればマイナスになる可能性が高い。

総務省中心に各省庁共同で5年ごとに作成されている産業連関表によれば、我が国では新築住宅建設には2倍以上の生産誘発効果(経済波及効果)があるとされる。しかし人口減少・世帯数減少局面では、新築が1つ建てられれば、その分以上に空き家が発生する。この空き家が放置されれば、倒壊や犯罪の温床となるリスクが生まれ、景観として街の価値を毀損することにつながる。

こうした外部不経済がもたらすマイナス部分、国や都道府県、基礎自治体で行う空き家対策費も膨大なことを差し引いて考えてみると、新築住宅建設の経済波及効果は、産業連関表が示すように2倍もないはずであるどころか、むしろ将来に負債を残している可能性がある。

アメリカもドイツもかつては新築建設が住宅市場の主流だった。しかし住宅数が充足するなかで2次市場である中古住宅市場中心に切り替えている。中古住宅の価値が落ちないことによる資産効果によって消費が活性化する、住み替え頻度が高まるといった市場経済に、できるだけ早い段階でかじを切るべきだろう。今後1年程度かけて議論される「住生活基本計画」のゆくえに注目したい。

今後ますます、住宅選びの際は、上記のような市場動向を踏まえつつ、「エリア」と「建物」を見極めることが重要になってくるだろう。

不動産コンサルタント 長嶋 修(ながしま おさむ)  

1999年に業界初の個人向け不動産コンサルティング会社である、『不動産の達人 株式会社さくら事務所』を設立、現会長。以降、様々な活動を通して“第三者性を堅持した個人向け不動産コンサルタント”第一人者としての地位を築いた。国土交通省・経済産業省などの委員も歴任している。2008年4月、ホームインスペクション(住宅診断)の普及・公認資格制度をめざし、NPO法人日本ホームインスペクターズ協会を設立、初代理事長に就任。また自身の個人事務所(長嶋修事務所)でTV等メディア出演 、講演、出版・執筆活動等でも活躍中。業界・政策提言や社会問題全般にも言及する。『「空き家」が蝕む日本』(ポプラ社)他、著書多数。http://nagashima.in/