特別インタビュー 瀬戸内寂聴「長生きすると分かる、いい人から先に逝くのは本当だって」(上)

週刊現代 プロフィール

人間は「忘れる」生き物です

河野さんと同い年だった作家の宮尾登美子さんも、昨年末に88歳で亡くなったばかりでした。

長生きするということは、たくさんの大切な人と別れるということです。

いままで何人もの知り合いを見送ってきたけれど、大体そういう人は病気の時からお見舞いにも行っているから、覚悟はできています。

でも、やはり死なれ時は悲しいものです。何度経験しても悲しい。私もいろんな人に相談されますが、親しい人が亡くなれば、悲しみや辛い思いがあるのは当然です。不思議といい人ほど早く亡くなりますしね。それを乗り越えるには、やはり時が必要なんです。

京都には「日にち薬」という言葉があります。どんなに悲しいことでも、どんなに苦しいことでも、人間は忘れるんですよ。朝から晩まで泣いていたのが、ふとある時「今朝は泣かなかった、思い出さなかった」と気づく。また何日かすると「今日はお昼になっても思い出さなかった」という状態になり、さらに日が経てば「今日は一日中、思い出さなかった」となって、悲しみを受け入れることができる。

だから、忘却ということは、非常に罪なことではあるけれど、ありがたいことでもある。人間は辛いことは忘れられるんです。それで、よかった記憶だけ心の中に残る。私は法話で、いつもこのようにお話ししています。

もう一つ女性からよく聞かれるのは、「あの世で主人が自分のことを分かってくれるだろうか」という悩みです。たとえば、7年前にご主人を亡くしたという女性の場合、ご主人は7年前のままですが、その女性は7年ぶん歳を取っているわけです。その女性に「あの世で逢った時に、こんなに歳を取った顔を見て、主人は私だと分かるだろうか」と聞かれました。

私もあの世へ行ったことがないので分からないのですが、そんな時は「向こうの世界では魂だけですから、顔なんかどうでもよくなります。あなたが行ったらすぐにご主人が寄ってきますよ」と答えます。そうするとみんな「ああ、よかった」と安心するんです。

葬式についても相談されることがあります。

「葬式なんて面倒くさい。こんなことしないですめばいいのに」と思っている人は、しないでいいと思います。心のこもらない葬式なんてしてくれても死んだ人が喜ぶ筈がありません。お墓を建てるのがいやだと言って海や野原に骨をまく人が多くなってきました。亡くなる時にそう遺言する人も出てきています。

私自身について言うと、天台宗の僧侶なので葬儀は天台宗に則って行われることになります。