名医たちが涙する「忘れられない患者たち」(上)「彼らに僕は大事なことを教わりました」

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週刊現代 プロフィール

「病室には、患者さんとその奥さんがいました。『じつは、僕はこれまで執刀医をしたことがないんです。あなたが初めての患者さんです』と伝えた。すると、『えっ!?』とご夫婦で顔を見合わせて驚かれました」

「嫌です」と言われたら、教授に任せようと思っていた。だが、その後の反応は意外なものだった。

くっくっくっ、と笑い、「いいですよ、先生。信用してますから、先生の思うように手術してください」と笑顔で言われた。

「何とも言い難い安堵感でした。手術経験ゼロで息子ほどの年齢の僕に、命を託してくれたことは本当にありがたかった」

一心不乱に取り組んだ翌日の手術は、成功に終わる。

「術後、『うまくいきました』と告げると、奥さんが夫に『よかったね』と言葉をかけたのですが、僕に対して『よかったね』と言われたように感じました。手術は、一点の曇りもなく思った通りにできたという達成感があった。それというのも、受け入れてくれた患者さんがいたからです」

「まだ元気に生きていますよ」。術後も毎年、男性からこんな年賀状が届いた。それから20年以上生き、90歳を過ぎて亡くなった。

真実を告げることで患者との信頼関係を築き、医師として全力で患者の治療にあたる覚悟をする。「命を託してくれる患者を裏切らない」。これが須磨医師の外科医としての鉄則の一つとなった。

「患者の命を救うため、医者はどこまで手を尽くすべきなのか」

大阪市立大学大学院医学研究科脳神経外科教授の大畑建治医師は、この問いの答えを患者から教わった。

'91年の初夏、大学1年生の男性が交通事故を起こし、病院へ運ばれてきた。入学祝いに両親から贈られた車を運転中に起きた大事故だった。

「すぐに亡くなってもおかしくないような状態でしたが、やれるだけの処置をして一命は取り留めました。ですが、その後はほぼ植物状態。意識を戻す術はないか、ご両親は奔走されていましたが、結局、1年後に亡くなってしまいました」

本来、脳死に近い状態と判断されれば「手術適応外」とされてしまうことも多い。植物状態になることが目に見えているのであれば、治療をしないのも一つの選択肢と考えられているからだ。

「どこまで救命すべきか、医者はみな悩みます。術後ずっと医者が患者の面倒を診られるわけではありませんから、患者や家族のためを思ったら、何が正しいのかわからなくなることがあるのです」