現場の証券マンさえ戦いた
ネット証券の加速度的浸透

兜町の変遷 3

「昔の証券会社、証券マンというのは、お客さんの側にたっていなかったんですよ、常に会社の側にたっていた」

 長年、証券業界に身を置く証券マンは、ネット証券の登場によって証券業界は様変わりしたと語った。

「昔は、営業マンが主流なわけですね。お客さんは、店に来てくださらないから、営業マンが訪問する。それで『A株はこれだけ上がったので、一度利食いして、B株を買いましょう』とか薦める。
  で、B株が下がると『申し訳ありません。間違えました。ここで損切りして、C株を買いましょう』とやる訳ですよ。要するに手数料を稼ぐことしか考えていなかったわけです。つまりは会社の儲けのことしか考えていなかった」

 ネット証券は、まったく逆だという。

「かつては、お客さんの資金を回転させることしか考えていなかった。現在のように新規の、株にまったく触った事がないお客様が、毎日参加してくるなんていう状況ではなかったですからね。
  今は、いかに新規のお客様を獲得するかが課題なわけです。みなさん普通の方ばかりですから、お客様が少しでも選びやすいシステムを作ることが証券会社の仕事になるわけですね。ライバルが沢山いるので、競争に勝つためには、お客様のニーズに丁寧に応えなければならない」

 この証券マンは、現在の方が、かつての証券界より、格段によいと云う。

「今の方が圧倒的にフェアですよ。商取引として。野村にしても、大和にしても、もう支店では株はほとんど扱っていないでしょう。債券や投資信託ばかりですよ」

行動パターンが変化した

 ネット証券の多くは、平成十一年十月一日にスタートした。SBI証券の設立準備に参加した同社システム企画部長今井秀明に聞いた。

「この日に株取引の手数料が自由化されたわけです。このタイミングをターゲットにして、当社(当時はイー・トレード証券)や、マネックスは準備をしてきたのです」

 この時点で、現在にいたるインターネット証券会社のメジャー・プレーヤーはほとんど出そろっていたという。

「このタイミングで開業しないと、大きな波に乗り遅れる、ということはどこも認識していたと思います。アメリカでは、かなり前から手数料が自由化されていましたからね。何が起きるかということはだいたい分かっていました。日本でも松井証券は、JASDAQでは手数料を下げていましたけどね。でも、大手はずっと一律でした」

 手数料自由化のタイミングは、インターネットの本格的普及期とも重なっていた。ネット環境が特別なものでなくなり、職場や家庭にまで浸透してきた段階に至っていた。

 平成十年十一月、SBI証券は、大沢証券を買収し、熊谷支店を閉鎖して、コールセンターに改変した。

「その時に、みんなで話したんですよ。開業して、口座が十万になった時に、コールセンターとネットと、利用者の割合はどれぐらいだろうってね。いろいろな意見が出ましたが、大体五〇パーセントずつだろう、という意見が多かったように記憶しています」

 実際にはじまってみたら、ネットがほとんどだったという。

 マーケティング戦略についても、試行錯誤があった。

「アメリカのネット証券会社は、テレビのCM枠を大量に買って、ブランディングをしたわけですね。それで、日本でもその戦略で行こう、ということになって、うちも大量にCMを流したのですが、あんまり効果はなかった。コストをかけた割に口座数は、あまり伸びなかったんですね」

 そこで、戦略を転換したという。
「日本のネット利用者にはCMよりも、具体的なベネフィットの方がいいのでは、と」
  平成十三年、SBI証券は、手数料を一気に下げた。

 それまで百万円までの取引一回につき二千円だった手数料を、一気に五十万円までは八百円、百万円までは千円にした。

「既存の証券会社の顧客がどっと入ってきましたね」

 この時の決断がSBIを、ネット証券のトップに押し上げた。今年二月の時点でSBIが二百万を超える顧客口座があるのに対して、マネックスと楽天がともに九十四万と、倍以上の差がついている。

 いまや手数料は、最低百円から取引できる水準にまで下がっている。

「株価が少し上下すれば、利益を出せるという水準を実現できましたね」

 その点からすれば、ネット証券会社は、装置産業である。インフラコストを切り下げつつ、顧客に安定したサービスを提供出来るかどうかが、勝負の分かれ目となるのだから。

 平成十五年に、本格的なネット株ブームが到来し、いよいよSBIの口座登録数は、加速した。

「ナンバー1をよしとする、日本人の心理が押し上げたんでしょうね。平成十八年一月、新たな登録口座が一ヵ月に九万三千件もあったんです」

 その勢いは、今井らSBIのスタッフをすら戦かせるものだったという。

「ライブドアショックが、天井でしたけれどね」

 一般的なイメージと異なり、いわゆるデイトレーダーの比率はきわめて低いそうだ。

「一日に十回以上、取引されるお客様は、ごくわずかですね。せいぜい数千人というところでしょうか」

   ∴

 旧来型の証券会社の顧客と、ネット証券の顧客の一番分かりやすい違いは、かつての顧客が買いから入ることが多かったのに対し、ネットでは比較的売りから入る方が多いことだという。

「その点では、個人投資家の行動パターンは、変わりましたね」

 将来の値上がりを見込める、資産形成を目的とするアプローチから、市場の動態自体を対象にする投資へと個人投資家自体が変容していった。

「いずれにしろ、SBIとしては、個人投資家にとって、一番取引がしやすい証券会社として選んでいただけるよう、努めていきたいと思っています」

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