小泉堯史&上田正治 第3回
「黒澤さんはいつも『ぼくは芸術家と呼ばれるよりも職人と呼ばれたい』と言っていました」

島地 勝彦 プロフィール

シマジ 単行本1冊を1,800円として比較すると、映画が2時間ちょっとで1,800円というのは高いかもしれませんね。わたしはお陰さまで毎回1,100円で観ていますが。それにしても黒澤さんが現役のころの日本映画は存在感がありましたよね。

小泉 まったくその通りです。『影武者』の北海道の撮影現場にアメリカからわざわざジョージ・ルーカスやフランシス・コッポラが来たぐらいですから。わたしも黒澤さんのそばについていて興奮しましたが、なにより一緒の時間を過ごせたということが無性に嬉しかったですね。

立木 そんな迫力と緊張感のある現場で、あのショーケン(萩原健一)がレフ版を持って立っていたりするんだよね。出番待ちの俳優が、黒澤作品に少しでも多く関わりたい、少しでも多く自分を監督に見てもらいたい一心で裏方仕事を手伝っているわけ。

シマジ 黒澤監督は大勢の人を一丸にさせる天才ですね。

小泉 黒澤さんは俳優がやっている本番の芝居を意外と見ていないときがあって、よく周りのスタッフを見ていたりしました。たとえば上田さんを見たり照明さんを見たり。

上田 そうでしたね。いつもスタッフの動きを観察していました。

小泉 表情をよく見ていたんですよ。たとえば天井のほうで照明さんが本番の芝居を見て涙を流していたとか、そういうのをよく見ていましたね。

上田 要するに、生の芝居を目の当たりにしているスタッフの反応を観察していたんでしょうね。その場にいる人間が感動しないような芝居では観客の心は動かせないってことだと思います。

シマジ それは面白いですね。黒澤監督本人は芝居をしている役者よりも周りのスタッフがどう感じているかを知りたかったんですね。

小泉 もちろんリハーサルのときは集中して俳優さんに指導していました。黒澤組はリハーサルをいちばん念入りにやる組ではないですかね。だからその俳優さんが馴染むまで衣装もメイクも何度でもやり直す。

黒澤さんはいつもはっきりと自分のイメージを持っていました。こういう人物像を作りたいという情熱が人一倍あったんだと思います。だから黒澤さんが満足するまでリハーサルを何度でも重ねていくんです。

黒澤さんの明確なイメージと、俳優さんが演じるイメージがピッタリ合ったときは凄く嬉しそうでしたね。もうニコニコの上機嫌で、芝居を見ながら一緒に笑ったり、俳優さんと同じセリフをつぶやいたりしていました。

シマジ まさに黒澤天皇ですね。