小泉堯史&上田正治 第3回
「黒澤さんはいつも『ぼくは芸術家と呼ばれるよりも職人と呼ばれたい』と言っていました」

島地 勝彦 プロフィール

立木 黒澤さんは自分で写真を撮ったりしたんですか?

上田 いやいや、黒澤さんは不器用な方でなにも触れませんでした。普段、電話をかけるのだって上手く出来ない方でしたから。

シマジ 本当に?

小泉 本当です。ところがいざ編集となると凄いんです。こんな器用な人がいるのかというくらい凄かったですね。ムヴィオラという機械がありましてね、ガラス玉みたいなところにフィルムがバーっと流れてくるんです。

立木 それを黒澤さんはいいところで手でパンと止めるんだよね。

小泉 そうです、そうです。バッと止める。

立木 あれは気持ちがいいんですよね。間違うと大変なことになるんだけど。

上田 あれをやりだすと黒澤さんはほかの誰にも触らせてくれなかったですね。

小泉 そうでしたね。後ろで野上さんが、途中でフィルムが詰まらないように一生懸命送っていました。

立木 シマジはよくわかっていないと思うから教えてやろう。撮影したラッシュフィルムが電動でワーッとで流れてくるのよ。それをカットしたいところでパッと止める。こう、指でつまむわけだ。黒澤さんはそれが天才的に上手かったという話だよ。

小泉 そりゃあ、黒澤さんは天才でしたね。

立木 ムヴィオラいまはもうないんですか?

小泉 ないですね。ムヴィオラを使える人ももういませんしね。

立木 でも映画の編集って、あの音がしないと編集じゃないと思いますね。

小泉 黒澤さんはずっとあれでしたね。

シマジ やっぱり黒澤さんは職人気質な人だったんですね。

小泉 ご自分でも「ぼくは芸術家と呼ばれるよりも職人と呼ばれたい」といつも言っていましたから。

シマジ 黒澤さんの映画がかかっていた映画館は立ち見というのが普通でしたよね。テレビがまだ幼稚だった時代の話ですが。

上田 そうでしたね。いまは立ち見は消防法で禁止されていますが、そもそも映画館に足を運ぶ人が少なくなりました。もっと若い人たちが観てくれなきゃダメだと思うんですが、映画1本観るのに1,800円はやっぱり高いですよ。アメリカだと封切館で高くても7、8ドルでしょう。