受験生のみなさんには恐縮ですが……
誰もが苦しめられた、にっくき入試数学。でも制限時間も自分の将来も気にせず向きあうと、出題者の遊び心、熱い数学愛から非情さまでが見えてきて、なんとも味わい深いのです。
中学から大学までの入試問題から「入試数学ソムリエ」が選んだ29問、寝ころがって気楽にながめれば、きっと数学のおもしろさを再発見できます。
学校で学んだ数学にいやな記憶を持っておいでの方の大半は、テストでいじめられた経験がトラウマのように残っているのが原因だろうと思われる。
制限時間内にわけのわからない問題を解かなければならず、その結果を評価されるのだからたまったものではない。
よく冗談で、「ゲームに夢中の子供をゲーム嫌いにするには、毎日決まった時間にゲーム機の前に座ることを義務化し、その成績を評価すればいい」というようなことが言われる。あるいはマンガを読むのを宿題にし、感想文を書かせる、というのも効果抜群だと思う。
そういう意味でのにっくき仇(かたき)の「ラスボス」は、入試問題だろう。その結果によって人生のある部分が決められてしまうというのだから、悪の親玉としての貫禄十分である。
しかし、試験会場を離れて数学の入試問題を見てみると、また印象が異なってくる。その素顔は意外とかわいらしく、人なつっこいとさえ言える。なかにはかなり底意地の悪い連中もいるが、ちょっと離れて眺めてみると、その底意がわりと浅薄で、なんだ、こんなやつらに怯(おび)えていたのか、とわれながら情けなくなってくることもある。
パズルとして考えると、数学の入試問題はなかなか楽しいものが多い。制限時間など関係なくゆっくり解いてみると、純粋に考えることの楽しさを味わわせてくれる。悩んだ末に解答にいたる光明を見出したときの喜びはひとしおだ。
そこで、かつてはにっくき仇の親玉であった数学の入試問題をネタにして楽しんでしまおう、というのが本書である。
当然のことながら記述は問題の解法に終始するわけではない。むしろそこからの脱線を楽しもう、というのが本筋だ。
脱線の方向は決まってはいない。わたしは歴史が好きだから、数学の歴史についての話題も出てくるだろう。具体的な事例からその本質をえぐりだして一般的な法則を見出すのが数学の醍醐味なので、そういう方向への脱線もあってしかるべきだ。
また、問題の内容からの連想でとんでもない方向へ飛び出していってしまうかもしれない。