4.基礎的サービスの特別区への分権化
佐々木教授【特別区制度は、自治の視点からすると政令市の行政区と全く違って、自治体であり住民参加が可能であり、公選首長、議会制度を有し、専任の職員集団をもつ自治政府である。4年に一度、選挙によってトップの政策運営、経営手腕はチェックされ、よければ再選、ダメなら落選、交代となる民主的な仕組みとなっている。・・・
この結果、特別区間の水平的競争関係がつねに作用し、相乗効果によって東京の大部分(面的にも)を占める中小企業等の底上げが行われ、雇用が生まれているのである。】(後編)
■コメント:
特別区は福祉・保健・教育などの政策が中心であり、都市整備や産業振興の力は弱い。限られた政策権限のなかでの特別区どうしの競争も意味があるが、代わりに、今ある大阪市と他の指定都市の競争メカニズムや、大阪府と大阪市の良い意味での競争・多様性は、消えてなくなる。(もし市に相当する特別区どうしの競争の方が本当に有効であるなら、大阪府下にある中小の市の政策は、大阪市の政策よりもすぐれているはずだが、そうでもなさそうだ。)
いずれにせよ、都構想反対の市民、政治家、学者の多くも、今の行政区の権限を拡大し、住民参加を強めることには賛成している。ただ、そのことと、大阪市の廃止消滅とを引き換えにする「大阪都」には、総合評価で反対せざるをえないのだ。
大阪市(政令指定都市)を残したまま、区を強くするソフトな代替案は、存在する。すでに地方自治法に「総合区」として導入されていて、「大阪都」反対の政党は、それを大阪に導入すればよいと提案している。区の権限や予算を拡大し、任命時に議会の承認を受ける区長が一定範囲で決定権を持つようにするという提案だ。
まず、このソフトな改革を導入してみるのが、よいだろう。ただ、どうしても区長公選が必要だと考えると、区は独立した意思を持つ自治体に近づくので、市の行政がバラバラになり、紛争調整が絶えまなく、かつ大阪市のスケールメリットが失われて非効率になるおそれもあり、検討が必要だ。
5.結局、何のための大阪都=大阪市廃止分割なのか
政治の世界ではしばしば、「公式の目的」と、「非公式の目的」とが交錯する。ここまでの1.2.4.は、大阪都の公式目的に関連するが、冷静に検討するとあまり説得力はない。少なくとも、大阪市の廃止という極端でデメリットも多い大変革を、強い反対意見を抑え込んで進めるための理由としては、弱すぎる。しかも大規模な制度改変それ自体に手間とコストが掛かり、その分、大阪発展のための具体的な政策が後回しになるのに、である。
したがって、ここから佐々木教授の論説を離れるが、大阪都の熱心な推進者は、実は非公式の目的や、特別な信念・固定観念を持っているのかもしれない。本稿の範囲を超えるが、たとえば次のように推測できる。
・便利で有用なものも多い府と市の二重行政を、効率性至上の視点に立って、絶対悪だとする思い込み(いわばケチケチ主義)。
・「大阪の司令塔を1つにする」。つまり大阪府の政策に対して、強い大阪市(市長、市会、市民)が異論を述べる可能性を、ゼロにしたいという願望。(ただ、一種の集権化であり、かつそれで進めやすくなる政策は、既存ギャンブルが豊富な日本でのカジノの建設、受験機会を減らすかもしれない市立・府立大学の統合、公共バスの削減が懸念される交通局の民営化などだが、そのために大阪市を廃止するのは視野が狭い。)
・大阪の現状を(東京と比べて)ネガティブにのみ捉え、失敗のおそれから目をそらしつつ制度改変を急ぐ焦り(冒険主義)。
・大阪都のプラスイメージで一定の集票を確保し、維新の党を維持し、他の党を批判する狙い(政治的シンボルとしての大阪都)。
・3.で述べたように、大阪市の豊かな税源を府が獲得すれば、債務返済や特定事業に充てられるという期待。ただし、これは言及されないので、とくに証明が難しい。
このように大阪都構想のいわばホンネの部分も探ってみたいが、やはり、公式目的が妥当か、それは大阪市を廃止しなければ実現できないかという議論、そしてそもそも「大阪都」になれば制度がどう変わるのかの正確な認識がたいせつだ。
後者つまり大阪都構想の概要については、①大阪市および24の区の廃止、②大阪市の大きな権限・施設・財源を府が吸収すること、③大阪市の小さな権限・施設・財源を5特別区が引き受けること、④当面、大阪府は府のままで都の名称にはならないこと、の4点を、客観的事実として、賛成派も反対派も十分に広報し、有権者に知ってもらうようにしていただきたい。
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