論説「大阪都構想『住民投票』で問われるのは、大阪の大都市の将来についてだ」 ―藤井聡氏の「7つの事実」に反論する―
【後編】

4.次世代までにらんだ選択

京大教授としての藤井氏への期待は、専門外の大都市制度論の展開ではなく、都市社会工学の専門家として、都市計画の視点から大阪はもとより、京都、東京、名古屋といった日本を代表する大都市の次世代のビジョンをデザインすることである。筆者もそう期待している。

他に藤井氏は、大阪の都市整備の技術力が弱まるとも言っている。大阪市から土木技術者など優れた人材が失われ大阪のまちづくり力が下がるという話。これは技術の出身者らしい藤井氏の指摘。根拠は大阪府庁にはそれだけの職員がいない、という論にある。

確かにこれまで大阪の都制計画を引っ張ってきたのは、大阪市役所都市計画局や港湾局であることは事実。日本でも有数の技術し集団である。ただ、藤井氏の指摘は的外れである。大阪市の技術部隊は、そのまま大阪都庁に移るからだ。これまで大阪市域内だけを担当していた、大阪市役所のまちづくり部隊が大阪都庁に移ると、彼らはさらにブラシアップし大阪全体のまちづくりをやるようになる。

むしろ、都構想の実現は大阪の技術力を高めるように作用するとみる。消防局も同様である。これまでの大阪市消防局は今後大阪消防庁になり、知事の下で、大阪全体のことを考えるようになる。これまでの大阪市役所にあった強力な組織を、大阪都庁に持って行くことで、大阪全体の仕事レベルが高まるのである。これこそが広域行政体の強化である。広域行政については、範囲を広げると同時に、広域行政体制のそのものの組織強化をはかる。これも大阪都構想の狙いとなっている。

広域行政の一元化、範囲の拡張と同時に、広域行政体そのものの組織強化になる「大阪都構想」は地方分権時代の地方政府のあり方を先取りする構想である。このことを有権者は理解すべきである。

大阪が都市間競争に勝つため、日本の二極をしっかり作ること、大阪により充実した住民自治を根付かせるため、それが大阪都構想の狙いだと筆者はみる。

ともかく日本はいま最大の危機に差し掛かっている。人口絶対減社会の到来であり、1200兆円超の膨大な借金国である。成長戦略を叫ぶ割に、その芽が出てこない経済ゼロ成長社会が20年も続く国である。それを何とか打開できないか、その思いは国民共通であろう。大都市への集中の流れを変え日本の人口減少を食い止めるにも、また国土の均衡ある発展をめざすにも、東京一極集中問題は何としてでも解決しなければならない。

これまでも東京一極集中の是正と国土の均衡ある発展は、戦後の日本政治の基本的なテーマとされ、地方分散の誘導策として、全総計画に基づくインフラ整備、テクノポリス法、頭脳立地法など様々な手立てで人の流れを変え、企業の分散を推し進めようとしてきた。しかし、歴史が示すように、その効果は限定的ないし逆の方向に動いてしまっている。

方向性としては多極分散型国土の形成をねらいとするのは正しい。しかし、実際には二眼レフの国土構造になっていることも否めない事実。西日本の拠点は大阪、東日本の拠点は東京である。もっとも、東京と大阪では大都市のサイズも違うし、抱えている問題も違う。東京は一極集中との戦いだが、大阪は衰退食い止めとの戦いという点、抱える問題の方向は逆ではあるが、しかし、日本を代表する2つの大都市である点では共通である。

そんな中、自前で新たな「都構想」実現に挑んでいるのが大阪である。

歴史上、浪速、江戸で栄えた大阪、東京は今後、日本の二都構想を考えるに値する力を持っているし、そうした格のある2眼レフの大都市である。東京への一極集中を抑制するには、各地の支店経済といわれる政令指定都市を強くし人口のダム機能を発揮するようにしなければならないが、オールジャパンで考えると、東京と並ぶ大阪をより強くしなければ分散型国土は生まれない。市民の自治を高め、都市の競争力を強めていく大阪都構想は次の時代を拓いていく切り札ではなかろうか。

現在の政令市制度をいかに加工してみても、狭い大阪市域でしか広域政策を展開できない仕組みの中では、21世紀のグローバル化した都市間競争の中では狭域政策に止まってしまう。日本に州制度が生まれる時代が来るかもしれないが、まず今ある大都市制度として都制度(都区制度)を使うのが賢明な選択ではなかろうか。

(長い論稿にお付き合い下さり、ありがとうございました。)

藤井聡氏の大阪都構想を批判する「7つの事実」、当『現代ビジネス』での主張は以下を参照してください(編集部)「7つの事実」http://www.mitsuhashitakaaki.net/2015/01/27/fijii/「大阪都構想:隠された真実を考える~なぜ、大阪市民の税金は、市『外』に流用されるのか?」http://gendai.ismedia.jp/articles/-/42056「大阪構想のデメリット「市の五分割」によって行政コストが上がるというリスク」http://gendai.ismedia.jp/articles/-/42289
ささき・のぶお  中央大学大学院教授。1948年生まれ。早大大学院政治学研究科修了。法学博士(慶應大)。東京都庁を経て、94年から中央大教授。専門は都市行政学、地方自治論。政府の地方制度調査会委員。著書に『人口減少時代の地方創生論』『都知事』ほか多数。