論説「大阪都構想『住民投票』で問われるのは、大阪の大都市の将来についてだ」 ―藤井聡氏の「7つの事実」に反論する―
【後編】

さて、もう1つの点だが、1割の国民が住む東京の都制(都区制度)を有する地方政府の存在である。

先述のように、東京の企業は95%近くが小規模経営である。その政策は国ではなく、都庁および各特別区に委ねられる。都政の産業政策は中小企業対策に追われている。それを伸ばそうと様々な施策を講じている。

少し前、石原慎太郎都知事の時、新銀行東京をあえて都庁が設立せざるを得なかったのは、伸びる中小企業があるにもかかわらず、大手都市銀行は貸し渋り、貸しはがしに走り、金融のひっ迫で倒産する中小企業が相次いだからだ。それを救い伸ばすために、あえて行政が出資をして銀行を設立するという英断に及んだのである。

東京の繁栄は、中央集権体制の反射的効果として様々な業種、東京事務所などが集積している要素は否定できないが、しかし司令塔を一本化した都制の存在も否定できない。もし現在の大阪のように、東京府と東京市が2頭立てでバラバラに政策を打っていたら、東京の土地利用も、大企業の立地整備も、空港や道路、地下鉄の整備なども混乱を来していたのではないか。

戦時体制で東京府市の合体を行ったが、戦後、それを元に戻さなかった判断は賢明であったと思料する。東京の大都市政策を都政に一本化したことで、戦後の多くの都知事は政府とは一線を画した行政を展開し、多くの分野で政府の政策をリードしてきたといっても過言ではないからである。

ちなみに、現在都知事を務める舛添要一氏は、今年の第1定例都議会で次のような政策認識を示している。こうしたことをやれるのが都知事のポストだ。

――東京の発展を加速し、国際競争力を高めていくため、国家戦略特区というツールを最大限活用してまいります。10地区の国際的ビジネス拠点を整備するプロジェクトでは、昨年の日比谷に続きまして、竹芝地区や虎ノ門四丁目地区の都市再生も動き出します。スピーディーな事業展開を後押しすることで、魅力的なビジネス環境の整備と都市の活性化を図ってまいります。

さらに、来月7日には、中央環状品川線が開通し、三環状道路の最も内側の輪が初めて完成いたします。羽田空港や臨海部へのアクセス向上、都心の渋滞緩和、大規模災害発生時における物資輸送ルートの強化など、その波及効果は計り知れないと思います。今後も、外環道をはじめ、都市活動を支える道路ネットワークの強化に取り組んでまいります。

(中略)先ほどの中央環状線は計画から完成まで約50年、虎ノ門周辺の環状2号線には約70年の歳月を要しました。都市づくりは、相当長期的な時間軸をもって取り組む必要があります。それゆえ、「長期ビジョン」という都政の大方針の下、さらにその先の2040年代を見据えた都市像を「都市づくりのグランドデザイン(仮称)」として取りまとめてまいります。少子高齢化・人口減少や技術の進歩など、様々な社会の変化を視野に入れて、検討いたします。グランドデザインという名にふさわしく、行政の縦割りを越えた総合的な見地から、しっかり時間をかけ、東京のまちづくりについて骨太の議論を行ってまいります。――(議事録)

さらに、特別区という仕組みも東京にも力を増し繁栄を支えている「底力」であることを見落としてはならない。

特別区制度は、自治の視点からすると政令市の行政区と全く違って、自治体であり住民参加が可能であり、公選首長、議会制度を有し、専任の職員集団をもつ自治政府である。4年に一度、選挙によってトップの政策運営、経営手腕はチェックされ、よければ再選、ダメなら落選、交代となる民主的な仕組みとなっている。これを経済活動、まちづくりの面からみると、地元の産業経済活動のレベルアップのために区長を先頭に産業経済部などは全力投球するし、他の区より魅力ある街づくりを進め人口を増やそうと都市計画部が頑張る。

この結果、特別区間の水平的競争関係がつねに作用し、相乗効果によって東京の大部分(面的にも)を占める中小企業等の底上げが行われ、雇用が生まれているのである。

実際、例えば都議、衆院議員を経験し、現在荒川区長であり23特別区長会の会長である西川太一郎氏の区における発言を紹介しておこう。

――私は、税を徴収する権限を与えられている国や地方自治体は税を納めても惜しくはないと納税者の皆さまに思って頂ける高品質な行政サービスを提供することが使命であると考えています。

こうした思いから、区長に就任してから約10年間で、千を超える新規充実事業を実施し、質の高い行政サービスの提供に努めてきました。これからも、区民の皆さまからお預かりした貴重な税を有効かつ最適に活用し、子育て環境の向上、先進的な教育環境の整備、福祉施策の充実、防災都市づくりなど、区政の課題に渾身の力で取り組んで参ります。――

――区内のほぼ全域で実施している集団回収による資源の回収は、皆さまのご協力により、区民一人当たりの資源回収量が10年連続して23区でトップの成績となっています。これは、循環型社会を築く基礎となる荒川区の地域力の強さを示す、誇るべき成果です。

また私は、東京二十三区清掃一部事務組合の管理者に就任した際、このあらかわ方式を含めた廃棄物処理に関わるノウハウを東京モデルとしてまとめ、経済発展に伴う環境問題や廃棄物問題を抱える海外諸都市の課題解決へ向けた国際協力を行って参りました。26年度は区の地域の皆さまのご協力を得て、マレーシア・クアラルンプール市民との国際交流・国際協力を実施しました。こうした国際協力の取り組みとごみ処理に関する目覚ましい成果が評価され、清掃一部事務組合は、毎年1月下旬にスイスのダボスで開かれる世界経済フォーラム(通称ダボス会議)で表彰される「2015循環経済賞」地域・都市部門において、アジアで唯一最終選考対象6団体の一つに選ばれました。

今後も地球規模での大きな動きも視野に入れつつ荒川区の強みである地域力を生かした循環型社会づくりを一層推進して参りますので、区民・事業者の皆さまのご理解とご協力をよろしくお願いします。――

――現在、注目されているのが、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活出来る期間である「健康寿命」です。健康寿命を延伸させることは、老後の生活を豊かにするのみならず、高齢者の社会参加を促し、社会の担い手を増やしていくことにもつながります。これを実現することによって、国民の安心を支える社会保障制度を持続可能なものにすることが出来ます。

このような基本的な認識に立ち、第6期荒川区高齢者プランを策定しました。基本理念を「健康づくりで元気に」、「自立を目指して」、「ともに支え合って」と定め、高齢者の皆さまが積極的に介護予防に取り組めるよう、「新しい総合事業」をスタートさせ、介護予防事業を展開します。

今後、このプランに掲げた施策を着実に推進し、「地域の連携と支援により、安心して住み続けることができるまち あらかわ」を目指して、全力で取り組んで参ります。――(いずれも同氏の発言録)

特別区制度は現在東京にしかないので、大阪でそれを採用することに躊躇するのは、実態がつかめない不安さから出てくることはよく分かる。しかし、これは海外の事例ではない。実際、東京で戦後70年営んできた特別区の事実として紹介しているのである。

大阪都が誕生すれば、大阪都構想の設計は現在の東京都区制度よりより洗練された制度化が行われているだけに、キャッチアップはおろか、世界に羽ばたく独自の大都市大阪が花開くのではないか。市民の方々はそれを期待してよいと思う。いま東京及び東京圏に住んでいる人々が東京一極集中を喜び、これ以上、東京が膨張していくことなど望んではいない。

事実、世論調査をすれば分かるよう、過密と膨張の弊害と直下型地震の恐怖を何とか取り除く政策措置を講ずるべきだという声が多数を占めるのである。大都市の経営には、世界のどの大都市も苦労をし、いろいろな制度や政策を組み合わせながら、都市経営を続け発展している。大阪は、東京はもとよりそうした世界の大都市に学び、後発の利益を生かして更なる大都市経営の方向を探るべきである。