論説「大阪都構想『住民投票』で問われるのは、大阪の大都市の将来についてだ」 ―藤井聡氏の「7つの事実」に反論する―
【後編】

「一極集中」は是か非か

争論7「東京の繁栄は「都」という仕組みのせいではなく、「一極集中」の賜である。」

 →よくそう言われるが、そのメカニズムを説明している人はあまりいない。藤井氏の論稿を読んでも、それは伝わってこない。「巷間言われている」という程度の認識でそう語っているように見える。もし、そうでないとするなら、もっと集中のメカニズムを科学的に論証すべきではないか。

東京の繁栄が何を指すか、かりに繁栄しているとすればその要因は何か。その要因として東京一極集中ということを言うが、何が一極集中しているのか、人によってイメージするものは様々なように思う。基本は大都市の魅力であろう。

大都市の魅力は経済とか文化などに限らず多面性を持つ。だから、なぜ大都市に人が集まるかを説明するのは容易ではない。ただ、東京に人口が集まる理由はひとつに、働く場、多くの企業が東京に集中しているということは否定できまい。日本には約162万の企業があるが、そのうち17%が東京に集中している。2番手の大都市・大阪の7.5%の2倍強に及ぶ。これを神奈川、埼玉、千葉を加えた東京圏でみると、30%に及ぶ。売上高トップ100社のうちの71社、上場企業の約50%が東京に本社を置いている。

このように、確かに上場企業の半数近くが東京に本社を置いている。しかし、都市としての東京全体の企業数でいうと、その構成割合は数%に過ぎない。東京の95%以上は中小零細企業、個人商店から成り立っている。税制上も必ずしも本社を優遇している訳ではなく、各地方に散らばっている支社、事業所の従業員や売り上げによって法人利益への課税が行われている。税という果実が全て東京に集中してくるという仕組みにはない。

筆者は、都庁企画審議室時代からその問題を研究する機会に恵まれてきたが、かりに人口(社会増)が未だ増加傾向にあり、経済規模が他の府県よりダントツに大きいということをもって「東京の繁栄」というなら、その要因は、①中央集権体制が温存されていること、それに寄り添うように企業や地方からの東京事務所、地銀などが群がり「集積にメカニズムが作用していること」、②国からの自立性の高い都制(都区制度)という仕組みを持つ地方政府による先駆的政策と23区部の区間競争原理の作用によるものとみている。

ここでいう行政機関である都の自立性の高さは、国の財政にほとんど依存していないこと、国からの天下りを伝統的に主要ポストに受け入れていない、都知事の政治行動は「東京から国を変える」意識に満ちているなど様々な面を指摘できる。筆者は都政に関し、『都庁―もうひとつの政府』『東京都政』(いずれも岩波新書)、『都知事』(中公新書)の3冊を著わし戦後都政を一つの研究対象にもしてきた。そのことを根拠にこう述べている。

藤井教授のいう「都」という仕組みが全く東京の繁栄に寄与していないという見方は、都制(都区制度)の構造的なメカニズムを理解していない話ではなかろうか。

ここで2つの要因について、述べておこう。まず第1は、なぜこうした一極集中が起こるのか、少し理論面からの説明を施しておきたい。

一般に大都市には、どの都市でも備わっている「基本的な都市機能」と、大都市であるがゆえに備わっていく「高次的な都市機能」の2つが混在している。特に東京の場合、生産業務とか国際とか生活消費の機能に加え、首都であることから中枢管理機能の集積が多い。この中枢管理機能と東京一極集中との関わりをどう説明するかである。

中枢管理機能というのは組織の重要な意思決定を担う機能を指すが、それは企業の本社や中央官庁、政党本部、高等教育・研究機関などの役割がこれに当たる。これはそれぞれ、経済、政治、行政、文化の領域に認められる。その中枢管理機能は、一般市民の個々の生活レベルには直接関係ないが、都市形成という面では、その大都市に集積したさまざまな分野の専門的かつ高度な技術や情報を通じて極めて広範囲にわたって影響力、支配力を持っている。他の諸都市にある低次レベル中枢機能を直接、間接にコントロールする力も持つ。

東京や大阪といったビック都市になると、県庁所在地に集積する低次レベルの中枢機能とか、関東圏とか近畿圏といったブロック圏域の中心都市に集積する中次レベルの中枢機能などを凌駕する高次の中枢管理機能が集積し、政界、官界、財界の全国レベルの意思決定や企業の生死を左右する頭脳の役割を果たすようになる。

中枢管理機能は一点に集まれば集まるほど、集積のメリットを高めていくから、「集積が集積を呼ぶ」論理が貫徹するようになり、特に首都機能の置かれている東京に一極集中のメカニズムが作用するようになる。この「中枢性」の高次化作用が東京一極集中の構図のひとつ。大阪に副首都機能を持たせるなら、その流れは変わるとみてよい。

***

もう一面は、情報社会の特徴から説明できよう。

「情報」というのは、「標準化され機械化しうる定形情報」(X)と、「情報の存在そのものに価値があり、情報の意味内容が重視される非定形情報」(Y)に分けられる。人と人との対話、フェイス・ツウ・フェイスで伝わる情報はここでいうY情報にあたる。

高度情報社会と言われる現代は、様々な情報通信手段があり、情報ネットワーク化が進んでいるから、大都市であろうが、地方都市、農村であろうが、情報アクセスについての地理的、物理的な制約は少なくなる。情報の広域拡散、大衆化か進む。これはグローバル化により地球規模で駆け巡ることにもなる。じつはこれは情報Xを中心とした量的拡大現象といえる。

一方、情報Yというのは、インフォーマルな人間関係、面談、会議を通じて伝わるから、地理的、物理的な制約を克服できない。人に会わないと伝わらない情報だからである。じつは人事とか予算とか政策とか法案という意思決定に係わる中枢情報は情報Yの性格が強い。それだけに、情報社会が高度化すればするほど情報価値が高まり、「集中」を免れることは出来ない。政治的な駆け引き、人事決定、金融の利率変更、政党本部の幹部情報などはその場にいる人しか知りえない。日銀周辺の兜町に証券会社が群れるのも、中央省庁に全国から陳情客が群れるのも、Y情報を得ようとして集まるのである。

東京一極集中のメカニズムが働くのは、各分野の高次中枢管理機能が一極に集中している帰結と言えよう。

情報社会の特質と中枢機能の性格を理解したうえで、東京一極集中をどう是正し、その弊害を排除していくか、人の流れを変えようとするのか。それは今政府のいう「地方創生」にとっても重要なポイントとなる。いま行われているような小手先の企業減税、助成金、Uターン奨学金免除といった小ぶりの施策で流れが変わるとは思えない。首都機能の移転や大ぶりの地方分権、企業誘致など内政権限の地方移管といった道州制移行などによる地域主権体制の確立がないと現状ではなかなかむずかしかろう。本格的な多極分極型国土を形成するなら、各地方広域圏に「集積が集積を呼ぶ」メカニズムが働くように、国のかたちを変えるしかないのではないか。大阪を強くする二都構想の実現も有力な分極型国形成の選択肢となる。